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番外編『新生活』
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4月になり、奏志よりひと足早く俺の社会人生活は始まった。
去年就職決まってからはひたすらに遊び呆けていた気がするが、仕事が始まってからは朝から晩までみっちり仕事で社会人としての洗礼を早くも受けている。
とはいえ、朝から俺を送り届けたいらしいもはや主夫に朝食を作ってもらって、至れり尽くせりで毎日出発の準備をする。
欠伸混じりに家を出ようとしたら、奏志に手を引かれた。
「梅乃くん、ちょっとまって」
ネクタイが曲がっているよ、と直される。
お前は新妻か。
「はぁ…スーツ似合いすぎてどうしよう。電車で変な目に合わないか心配だよ」
「俺に毎日痴漢働いてたのはお前だろーが」
「えっ。あ、あれは…その…混んでたからで…っ」
ゴニョゴニョ苦しい言い訳をしているが、満員電車に紛れてハアハア言いながら人の体撫でまくってたの俺は忘れてねーぞ。
赤い顔で気まずそうに視線を彷徨わせる奏志は置いといて、腕時計を見る。
あんまりゆっくりもしてられない。
「夕飯作って、猫さんと一緒に待ってるからね」
「おー。唐揚げ食いたい」
「うん!頑張って美味しく作るね」
満面の笑みだが、俺の仕事が始まってからはやっぱりどこか寂しそうだ。
奏志が受験勉強だった時は俺のほうが待惚け食らっていたが、今はコイツの方が俺の帰りを待つ日々だった。
とはいえコイツだって大学始まったら忙しくなるだろうし、こんな生活は今だけだが。
どこかモジモジと名残惜しげな奏志に、表情を緩める。
ほんとコイツは考えている事が顔に出まくりだ。
「おい」
「えっ――」
俺より高い位置にある胸ぐらを掴むと、ぐいっと引き寄せる。
降りてきた唇にちゅっと軽く重ねるだけの口付けを交わして、ぼけっと驚いている間抜け面にニッと微笑んでやった。
「よし、行ってくる。いい子で待ってろよ」
「わっ…あっ…い、いってらっしゃい!俺いい子にしてるよっ。ちゃんと待ってるからねっ」
真っ赤な顔であわあわしている奏志に俺は満足して、家を出た。
行ってきますのチューなんてこっ恥ずかしい行為ではあるが、アイツに寂しい顔させたまま別れるよりマシだ。
ちなみに奏志が俺の家で当たり前のように待っている光景はここ最近ずっとで、日中は俺の母親に顎で使われている。まるで姑だ。
だが大体は勉強して過ごしているらしく、もう受験は終わったのに相変わらずのクソ真面目っぷりだ。
仕事に行くのは既にだるいが、それでも待っている奴がいると思うと少しは頑張るかという気にもなる。何より今日の夕飯唐揚げだし。
まだ透き通った空気漂う早朝の街並みに、俺は足を踏み出した。
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