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来客の土産
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今朝眠りにつく前に連絡し、呼び出した彼はにこやかな笑顔と共に約束の時間通りにやって来た。
「こんばんは、ノア先生久しぶり。」
「おい、先生ってのはやめろ。そんな偉いもんじゃない。」
玄関先でうんざりした表情で迎え入れると、会社帰りのスーツ姿の水上が慣れた様子で部屋へ上がりこむ。仕事場であるリビングに着くと途端にきょろきょろと周りを確認し始めた。
「なんだ?」
「いや、助手を雇ったとか言ってたからどこにいるのかなって。」
「ああ、あいつな。今はちょい野暮用。」
眼鏡をかけた凡庸な顔を思い浮かべる。編集者の勧めと気まぐれで雇ってみた助手は馬鹿正直で気弱で真面目な男だった。もしも助手が愛想を尽かし、音信不通になっても深追いはせずに逃がしてやろうと思っている。雇って約半年、むしろそうして欲しいのかもしれない。
「残念。やっと会わせてくれるものだと思っていたのに、そんなに出し惜しみするなんてどうしてかな。俺の好みだったりするとか。」
「さあな。お前の好みなんて一人しかわかんねえよ。」
そう言われて苦笑いし、左手の指輪を無意識に右手でなぞる。確かに本気で好きなのはその一人だけだった。
水上は上着を脱いでくつろぐと、勝手に冷蔵庫からビールを二人分取り出し狭いテーブルに置き、空いている方の椅子に座るとさっそく飲んで一息つく。
「そういえばネタで行き詰まってる原稿は進んでる?あの名刺は役に立ったかな。」
「悪いな。俺はまだあの店に行ってねえんだ。」
「なんだ残念。その気になったら声かけてよ、俺も一緒に行って乃亜を守ってあげるよ。」
水上は向かいに座る男へ半ば本気で言う。少し癖のある黒髪、茶色の瞳はよく見ればグレーが混じっていて角度により印象を変える。鼻が高く彫りの深い顔立ち、骨格や筋肉のつき方などあらゆる部分に異国の血が混じっているのを感じさせる。本名は黒谷乃亜、作家としてはクロタニノアで活動している日本人とアメリカ人のハーフだ。
「バカか、俺がお前に守られることなんかありえねえよ。」
「はははっ!だよね。でも面白そうだなあ、乃亜と一緒に行きたいなあの店。そうそう、あの羊君とかどうだろう。ああいうタイプもしかしたらいいんじゃないかな。」
「あん?」
ビール片手に火をつけたタバコをくわえていた黒谷が目を細める。
「ネタの足しになりそうかなって話。うぶであんまり場慣れしてない子との遊びの話に興味ない?」
「へえ。なんだそれ面白そうな話じゃねえか。」
「でしょ。」
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