アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
3にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
3
-
食べ終わると、今度は違う疑問が浮かぶ。商談が早く終わるのはいつものことだが、ソレにしては静か過ぎる。
「ところで、エドは?」
明日帰ってくるハズだったジンが屋敷にいるなら、エドもいるハズ。そう、出張から帰ってきたらまずオレが寝てようとも真っ先にココに飛び込んでくるから、そう訊いた。
すると、「延長だ」とジンは答える。
「延長?」
オレが首を傾げると、「商談が伸びた」とまた短く答え、「あと3日空ける」とジンは要点だけをオレに喋る。コレもいつものことだが、仕事中のジンは素のジンと違って寡黙だ。商談の内容とか日程とかが機密事項らしく、オレにも話さない。
「そ、解った」
頑張ってと家業のことに口をださず、オレは立ち上がる。足腰は痛いが、ふらつくことはなかった。コレなら学校にいけそうだとベッドから降りる。空になった皿が乗ったトレーはジンが片してくれるようだから、オレはシャツを脱いで制服に着替えた。
姿鏡に映るオレのあちらこちらには紅い斑点があった。眠る前まではまったくなかったから雪白が嫌がらせで残していったんだろう。シャワーを浴びてでたら、オレが許可なく爆睡していたらあり得ることだ。キスにしろ、キスマークにしろ、本当一体なにがしたいんだか。オレは溜め息を漏らしながら、制服にちゃんと隠れているか確認する。
身嗜みを整え終えたら、トレーを片しにいったジンが戻ってきた。わざわざ、み送りにきてくれたとは思えず、どうしたんだ?と訊くと送ってくれるというのだ。
「え?イイのか?」
「でる次いでだ」
ジンはオレの鞄とお弁当を持って、「ほら、いくぞ」という。鍵や戸締まりは使用人がいるからしなくてもイイが、ガレージの鍵はちゃんと閉めておかないといけないだろう。外車や高級車の盗難が多いと聞くから。
オレはジンが車をガレージからだすのをみ、降りたシャッターを確認してからジンから預かった鍵で施錠する。施錠方法がアナログで、セキュリティロックでないのは国柄なんだろう。そして、そのシャッターの向こう側にあるエドのお気に入りのブルーハワイ色をしたランボルギーニアヴェンタドールSは今日も主に乗られることもなく、ガレージでお留守番だ。運転もできないのになぜ買うのか、不思議でならないオレはジンの車に乗り込んだ。
「はい、ジン」
ガレージの鍵をジンに渡し、シートベルトをする。だが、どうしても右ベルトに慣れないからもたもたする。不器用だなとクスクスと笑ってジンが絞めてくれるが、こういうのに慣れるのはこの先もないだろうと苦く笑い、ジンの横顔をみる。運転中にだけかけるという眼鏡が、どうも他人行儀で落ち着かないから。
「み惚れてんぞ」
「違う!可視してんだ!」
顔を赤らめ、「なんで眼鏡なんだ」と呟くとジンは「視力が弱いからだろう?」と至極当たり前のことを返され、オレは息をつく。
「そういう意味じゃなく、なぜ、コンタクトにしないかって話だ!」
「ああ、相性が悪いんだよ。真弥みたいに真っ赤なウサギさんは勘弁だろう?」
ジンがオレの生まれつきコンプレックスを平然とした顔でいうのは、そう気にするなも含まれているのだろうが、アルビノでない分タチが悪い。先天性の色素不足なら「病気です」といえばなんとかなる。だが、オレの場合はそうでない。タダ、そういう色なのだ。親父もそうだったし、祖父も曾祖父もそうだったらしい。男にしか現れないコレは、薄命や薄幸を宿っているといわれ、厄神に好かれているともいわれている。後者はかなり眉唾モノだが、前者は強ち間違ってはいなかった。ソレはともかく、病気でもないからよく気味悪がられている。
「ジンの気にすんなは、本当、よく解んないんだが」
どう返せばイイ?と車を走らすジンの横顔をじっとりとみた。通り過ぎる景色が線を描いている。赤や青、緑や黄、茶に黒とさまざまだがソレは混じる要素はなかった。白の建物が建ち並ぶソコはあまり好きではない。仮想空間とそうでない区別がつかないから。
「ん?そんなの、真弥のしたいようにすればイイだろ?」
「オレの?」
「そう、お前の」
噛み合ってそうで噛み合ってないジンの言葉に首を傾げながら、オレは視線を動かした。被るハズがない視線が重なり、瞬きをさせると温かいモノが唇を割って中に入ってくる。ソレがなんなのか理解できた頃には、オレの口内からでていっていた。
蜘蛛が糸を吐くように唾液が綱なり、プツリと切れる。左目の下にある泣きボクロで、ソレが誰かなのか直ぐ解った。物欲しそうな黒い瞳がみえたと思ったら、急に視界に紙幣札が入ってくる。ソレが1万円札だと認識したとたん、制服の胸ポケットに捻り込まれていた。
「帰り、しんどかったらタクシー使いな。エドには黙っておいてやるから」
オレの頭をかき混ぜるジンは、餞別だとにかっと笑うが、オレには「オレを愛して止まないエドの留守中に、邪なことをしていたことを黙っておいてやる」に聞こえ、アレでもオレの保護観察官であるといっているようであった。だから、オレは黙って頷き、ジンの横顔から目を剃らした。直視できない卑しさに、浅ましさが加わったようで心が痛かった。
車は静かに車道を走り、目的地である学校に着く。正門近くの停留所に止まり、オレはシートベルトを外す。ソレと同時に、ジンの手がオレの頭から離れていった。
「真弥、気ぃつけてな」
オレはジンのみ送りの言葉を聞いてから、車から降りた。通学路だけに悪目立ちする。振り返る生徒と目が合うが、苦笑いしかでない。さすがに、紅いボディのアルファロメオジュリアは通学路には似合わないだろう、と。
「いってくる」
ドアを勢いよく閉めながらいってらっしゃいの挨拶を返し、ジンをみ送る。静かに発進させるジンの後ろ姿をみ、エドとの約束の時間には間に合うのだろうかと心配するが、背後からかかる声に身が引き締まった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 4