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番外編49ひと夜咲く純白の花の願い
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ほら……。
だから帰るって言ったのに…。
マキ「…」
百目鬼「…」
その冷たい視線が、鋭い刃物のように刺さってる…、痛む傷口を冷めた心で見下ろす…。
次に飛んでくる言葉で打ち砕かれたりしないように、ありとあらゆる想定をして心を閉ざす。
ここで涙を見せたりするような事になるなら、死んだ方がマシだ。
マキ「…」
百目鬼「…」
僕たちが無言でいるのを、檸檬さんがオロオロ見ているのが目の端に写ってる。彼には申し訳ないけど、僕を探した時間は無駄な時間だ。
何があったか説明する気はさらさら無い。
そんなの時間の無駄だ。
何一つ信じてもらえないのは目に見えてる。
それより早く解放してくれ無いかな?
悪態つけば、百目鬼さんは怒って僕を置いて帰るかな?
でも、今までの面倒見を考えると、怒ったところで送るとか言いそう…。
ある意味、大人な人だ。
でも、今はじゃべれない…
喉の奥が痛くて……
口を開いても喉が締め付けられて声が出ない……
今日僕は、一体何回泣きそうになってんだ…ふふ…うっぜー……マジほんと…
全然成長してねぇーでやんの…ウケる
百目鬼さん、サッサと止めを刺してよ。
マキ「…」
百目鬼「……………チッ、檸檬行くぞ。そいつ連れてこい」
百目鬼さんは踵を返してそう言った。
低い低い不機嫌な声に、耳が凍りそうだ…。
檸檬さんがオロオロして百目鬼さんと僕を交互に見る。
檸檬「ッ…マキちゃん行こう」
百目鬼さんは、一体何がしたいのかな?
絶対に罵倒されると思ったけど。…檸檬さんが居たからかな?
彼のやろうとしてる事が終わらなきゃ、解放してもらえそうもない。
前を歩く百目鬼さんは内ポケットからタバコを出し火をつけて咥えた。
再会してから初めて見る、百目鬼さんの喫煙姿………。
??????????????????????????????????????
駅前まで戻ってきた。
ここに来るまで僕と百目鬼さんは一言も言葉を交わしてない。檸檬さんがその場を和ませようと喋るけど、12月の空より寒い事になっていた。
百目鬼さんは凄くイライラしてて、2本目のタバコを吸っていた。
いつもなら曲がる道を真っ直ぐ進む百目鬼さんに、檸檬さんが立ち止まる。
檸檬「あれ?百目鬼さん!事務所帰んないんですか?」
百目鬼「もう疲れた、菫んとこ行く」
マキ「…」
檸檬「え?でも百目鬼さん夕飯作ってたじゃないっすか!」
えっ?
百目鬼「余計な事喋んな!面倒くさい!」
百目鬼さんは菫ママの店に入ってく。それを見て、檸檬さんが僕に耳打ちしてきた。
檸檬「百目鬼さん杏子に買い物頼んで、マキちゃんが居ない間にご馳走作ってたんだよ。看病してもらったお礼にって」
そう……だったんだ……。
僕のために…夕飯作っててくれてたのか…。
時間はすでに8時半を過ぎていて、病み上がりの百目鬼さんを走り回らせて疲れさせて申し訳なく思う。
僕は大人しく、菫ママのお店に入った。
菫「マキちゃーーん!!!」
扉を開けた瞬間、190を超える大柄の菫ママが抱きついてきて頬ずりしてきた。
菫「無事でよかったわぁー!神に虐められたのね、私が成敗してやったからもう大丈夫よ!」
マキ「あっ…いえ…百目鬼さんは何も悪くないんです」
菫「やだー!!聞いた神!!マキちゃんはこんないい子なのよ!!なのにあんた!!なんで虐めるのよ!!」
僕をギュウギュウ抱きしめて、百目鬼さんに怒鳴り散らす菫ママは、かろうじて女言葉をつかっているが、野太い声の迫力は男そのものだ。
マキ「あの、本当に虐められてませんから」
菫「いいのよマキちゃん、この馬鹿から話しは聞いたのよ、この馬鹿が悪いの!マキちゃんは何にも悪くないのよ!さぁ、神のタバコ臭い服なんか脱いで…あら?」
菫ママが僕の着ていた服を掴み湿っている事に気がついた。
菫「なんで服濡れてるの?」
菫ママの言葉に、百目鬼さんが振り返る。
僕はへらっと笑って取り繕った。
マキ「あは♪水こぼしちゃったんだ♪」
百目鬼「…」
菫「え?でもせ…」
マキ「僕っておっちょこちょいだから♪」
菫ママが襟の後ろを触ってて背中側も湿ってるって言いたいのを、菫ママの着物の裾をグッと掴んで至近距離で見つめる。
菫ママは、僕の目を見て察したようで、話しを変えてくれた。
菫ママ「お洋服、お店のでよかったら貸してあげるから、着替えなさいよ風邪を引くわ」
マキ「ありがとうございます♪」
菫ママ「神と檸檬ちゃんは奥のVIPルームに行くといいわ、すぐお料理も運ばせるから」
檸檬「やった、菫ママのご飯美味しいんだよな」
ーカラン♪
入り口のドアが開いて、杏子さんが飛び込んできた。
檸檬が杏子にピースすると、杏子の表情が和らぐ。
杏子「ああ、よかった。探しましたよマキさん」
マキ「ごめんなさい」
下がり眉でへらっと笑って謝ると、杏子さんは安心したように息をついた。
僕に向かって案したように微笑む。
僕も杏子さんに微笑んだ。
すると、さらに杏子さんの後ろから声が飛んできた。
「見つかって良かったな」
それは、低い低音…。
…今は聞きたくない…
含みを感じる低い声だった。
杏子さんの後ろには。
賢史さんと矢田さんがいた。
檸檬「賢史さんお疲れ様!矢田ちゃんお疲れ!」
賢史「ほんとお疲れ檸檬」
矢田「お疲れ様です。檸檬さん体調は大丈夫っすか?」
檸檬「平気平気!久しぶりに外の空気吸えてむしろ超元気!」
賢史「油断するとぶり返すぞ」
……この可能性は考えた。
百目鬼さん一人でなく、檸檬さんや皆んなと僕を探してると知った時。百目鬼さんが刑事である賢史さんに連絡を取るだろうという可能性。
大丈夫。これは想定内。
賢史「マキちゃん、心配したぜ」
白々しくにっこり笑って僕の肩を抱く賢史さん。
彼の目を見て分かった。
彼にとっても、僕が百目鬼さんに連れ戻されるのは、想定内なんだ。
悪いけど…、僕、掌で転がされる趣味はない。百目鬼さんには、他の男とセックスしたのがばれた時点で、僕は失うものはなくなった。百目鬼さんにホテルでのことをバラすなら好きにすればいい。
皆んなの前で僕が朱雀のスパイとでも言いたいなら好きにすればいい。
百目鬼さんの気持ちが、僕を軽蔑して汚らわしいと感じた時点で、その嫌いの度合いが深くなろうと関係ない。嫌いは嫌いだ。
もう2度と会わない人間に嫌われたところでどおってことない。
僕の落ち込む姿が見たいんだろうけど、どうでもいい。
花は枯れてなくなった。荒地を踏み荒らしたいなら好きにすればいい。
絶対に思い通りにはなってやらない…
マキ「すいません♪」
僕の肩を抱く賢史に、上目遣いの下がり眉で、可愛子ぶりっこしてそう言って。左の目元の髪をスッと耳にかける。そうすることで色っぽい涙ボクロが見えて妖艶に微笑む。
賢史「…!」
マキ「ご心配をおかけしました」
好きにすれば?あんたには屈しない。
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