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〔裏番外〕狂愛♎︎純愛26
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夜空には、細く薄い三日月。
数日後には無くなって、新月を迎える。
自宅部分の三階寝室から、酒を飲みながらその欠け行く月を眺めていた。
マキの育った環境は、悲しいものだった。
ずっと寂しかったんだろう…。
育て親として愛情を注いでくれる茉爲宮清史郎がいても、昼間はベビーシッターと2人きり、幼い子供には分からない大人の愛憎に晒されていたかも知れない。
調べたところ、茉爲宮家はいくつもの会社を抱えており、マキの父親はその社長だった。正妻との間に、1人子供がいて、その子はマキの三つ上の腹違いの兄にあたる。
茉爲宮清史郎は長男だったが、大会社を動かす能力がマキの父親に劣り、数ある会社の中でも小さめの会社を継いでいる。
マキの父親の正妻について調べたところ、浮気性の旦那を支える良き妻、とても躾には厳しいがキッチリしているだけで、近所の評判も良かった。
マキは、近所で幻のような存在だったらしい。ほとんどお屋敷から出ず、通学も車だったそうだ。だから、屋敷の中でマキに何が起こっているのかは、分からない。
マキは閉ざされた空間の中で、清史郎だけが心の拠り所だったのだろう。雛鳥が最初に見たものを親と思うように、マキにとって清史郎が全てだったんだ。
大人びて、ヘラヘラするのは、心配をかけないため…。愛情に飢え、愛した男は、マキを見てはいなかった。だから、自分は愛されないと思ってるのか?
だからマキは、「狂うほど愛されたい」と言ったのか。俺なら、絶対的に一途な愛で独占してくれると思ったから、好きになったのか?だから、修二が羨ましいと言うのか…
マキは、良い子でいようとする寂しがりやの子供のまま、外面ばかり大人になったんだな…。
俺の作った夕飯を美味そうに頬張るのも、一緒に寝たがるのも、SEXしたがるのも、全て、寂しかったから……。
マキの気持ち、少しは分かる、俺も片親だった。だから母親は仕事ばかりで、俺は自分に出来ることは全て自分でやった。だが、食堂経営だったから、食事はいつも母親の手作りで、賑やかな常連客に囲まれて食事した。
それに、中学に入った頃には、母親に内縁の夫が出来、その夫の連れ子達と暮らすようになった。最初こそ疎外感を感じていたが、兄弟の飯を時々作ってやると、尊敬の眼差しで見られ、徐々に、本当に徐々に打ち解けた。
俺は寂しい思いもしたが、賑やかな義理の兄弟が出来たりした。
マキには、茉爲宮清史郎しか居なかったんだ。なのに金積まれて追い出された。
マキは、愛情に飢えながら恋のキューピッドをして渇きを潤して、俺なんかと出会ったがために…。
今、ボロボロだ。
何も話してくれなかったマキに怒りを隠せない。だが、この怒りは沈めなくてはならない。沈めなくては、修二の二の舞にしてしまう。マキと冷静に話せるようになるまで、2人きりで会ったりは出来ない。
だが、果たして…
俺の怒りが収まることなどあるのだろうか、マキの悲しい育った環境を聞いてもなお、俺の中は、怒りが支配してる。
飲んでも飲んで酔えないような、湧き上がる怒りは、とめどなく溢れて、理性を焦がしていく……
だめだ…このままじゃ、俺はマキを喰い殺す
グシャリと握りつぶした、この空き缶のように…
だが、残酷にも。怒りの収まらない状態で、仕事でマキと会わなければならなかった。
姫香さんが、事務所にお礼に来たいそうで、マキと会いたがっていた。
2人を会わせたら、マキをすぐ矢田に送らせようとした。だが、マキは言うことを聞かなかった。
マキ「呼んでくれてありがとう。姫香さん直接顔見れて良かった♪」
百目鬼「そうか、帰りは矢田に…」
マキ「百目鬼さん」
百目鬼「なんだ」
マキ「今日、泊まっちゃダメ?いい子にするから♪」
軽い感じの声だったが、マキの目は珍しく真剣で、マズイと思った。今の俺は、冷静な話は出来ない。
百目鬼「駄目だ、明日大学だろ」
マキ「ちゃんと行く♪お泊りセット持ってきたし♪」
そうヘラッと笑いながら、マキの表情は強張っていた。
何だか…嫌な予感がする。
百目鬼「駄目だ、いい子にするなら言うこと聞けよ」
マキ「百目鬼さん…、話しが…」
意を決したように言われた言葉は、檸檬の咳払いに阻まれたが、俺はゾワっと冷たいものが心に刺さった。
『嫌われちゃいますよ』
俺の心は整理できてないのに、マキは、何かを俺に伝えるつもりだ…
改まって言う話など、1つしかない。
俺はマキを泊めたくなかったが、檸檬がとんでもないことを言い出す。
檸檬「そっか!じゃあマキちゃん、僕の所泊りに来なよ!杏子と〝矢田ちゃん〟がいるから合宿みたいで楽しいよ!晩ご飯は菫ママの所で食べよう!あそこなら賑やかだから〝雪哉さん〟や〝賢史さん〟も呼んで…」
百目鬼「分かった!絶対に俺の家に泊める」
ついつい出た言葉に驚きを隠せない、こんな状態なのに、つまらない嫉妬で衝動的に口を開いてしまう。
考えても無駄だ、俺は、結局キレちまう。
マキを取り敢えず部屋へ連れてきて、俺はソファーへ座り込む、どっと疲れてため息が出た。
マキと2人っきりというだけで、頭の中が乱れ。胸が締め付けられる。ゾワゾワと意味不明な感情が支配して、冷静ではいられない。
部屋が、昨日のまま散らかってた。頭も体も部屋までも、マキ1人の事でめちゃくちゃだ。
舌打ちしながら、取り合えず後片付けをすることにした。少しでも、時間を稼いで考えて落ち着く時間が欲しかった。
結局あっという間に片付いて、落ち着くどころでは無く、ソファーに深く腰掛け、大股開いて肘を膝についた状態で顔を覆った。
後回しにしても、いずれ言われてしまう。
百目鬼「…話って?」
マキ「あ、あのね…」
マキは緊張した様子で、言葉に詰まる。
檸檬や雪哉に言われた言葉が頭を過る。
俺は、ついに要らなくなるのか…
マキ「……あのね…百目鬼さん…」
マキの強張った声に我慢ならず、決定的な言葉を、マキから聞きたくないと咄嗟に口を挟んだ。
百目鬼「〝別れ話しか?〟」
マキ「え?…」
自分で言っておきながら、その言葉の重みと痛みに耐えられず、衝動的に言葉が溢れ出る。
百目鬼「…俺の事、めんどくさいと思ってるだろ」
マキ「え?、そんな!思ってない!」
マキは優しい。思ってたとしても言わない。
百目鬼「後悔したろ」
マキ「そんなこと一度も思ったことない!考えたことも感じたこともない!僕は百目鬼さんのこと全部好きだもん!」
マキの言葉は、全て耳を通り抜けてしまう。その言葉が全く信じてやれない。
マキの「好き」が、薄っぺらいものに聞こえてしまう。
マキ「は、話しがあるって言ったのは、謝りたくて、まだ怒ってるのかと…思って…」
百目鬼「…悪いが怒ってる。心が狭いと分かってるが、許せない」
マキ「ううん、百目鬼さんの心は狭くないよ。僕が悪いんだ…」
そう、お前だ。お前が悪い。
マキの前だと心が狭くなる。引っ掻き回されて、俺ってやつは、獰猛な猛獣のまま、そのうちマキを喰い殺す。何もかも束縛して手に入れたくなる…
百目鬼「……今に…めんどくさくなる。
今のうちに、言え」
間に合ううちに…
俺が、俺で居られるうちに…
マキ「思った事ない!!」
強く否定されればされただけ、〝ならば何故?〟と、心の中の疑問は膨れ上がる。
ふつふつと煮えるような怒りが収まらず、自分でもわかるほど、マキに冷たい声を浴びせた。
百目鬼「…なら、聞かせてくれ」
ゆっくりと顔を上げ、冷たい瞳でマキを見据える。
百目鬼「なぜ、俺に嘘をついた」
マキ「嘘?なんの?」
とぼけた声に、頭の中で理性が焼けるのがわかった。
百目鬼「何故、半年も付き合って、今更なんだ…」
何度も言うチャンスはあったろう?
それとも、言う気がなかったのか?
マキ「何?…なんのこと?」
期待した答えは…
返ってこなかった。
聞いても無駄なんだ…
百目鬼「お前は、嘘だらけだな、マキ」
そして、ゆらりと立ち上がる。
百目鬼「いや…違うか」
マキの前に立ち。冷えた低い声で告げた。
「〝茉爲宮優絆〟くん」
(まなみや、ゆうき)
ードクン!
その瞬間、マキはありえないぐらい動揺した瞳で俺を見上げていた。
その動揺が、
俺に真実を言う気が無かったと言っていた。
マキ…マキ…
どおしてなんだ?…
ギリギリと締め付けられる胸の痛みで
理性が
焼け落ちる…
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