アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
★スクラップスケッチステップスキップスクランブルスタートにしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
★★★★★★ 君が悲しみに泣き叫んだあの夜も、どこかの誰かは愛に癒されていたんだって、 ☆☆☆☆☆☆
★スクラップスケッチステップスキップスクランブルスタート
-
★スクラップスケッチステップスキップスクランブルスタート
高田は織部のことが好きで織部は松屋のことが好きだ。ばかめ。こんな田舎の狭い部室にホモだらけ。世も末だ。
「はがきってどこで買えんの?」
「郵便局」
「コンビニにもあんじゃね」
いっけん仲の良い男子高校生。本人たちもまだ愛とか恋とか性欲とか憧れとか友情とか区別ついてないんじゃないか。
「帰りに行こうよ」
「おー」
「俺も行く」
「松屋、家逆方向じゃん」
「いいじゃんべつに」
はい出ました。軽い嫉妬。仲間外れが嫌、みたいな。こんな些細なことを気にしてるのは俺だけだ。かなしい。
「日比谷も行こうぜ」
「……おう」
俺は返事をして、本を閉じる。菓子パンの応募シールなんか集めてどうする。主婦か。昼休み、ずっと何の菓子パンが好きかだけで盛り上がれるやつら。女子高生か。
織部は松屋のことが好きで松屋は高田のことが好きだ。きれいな三角関係。俺は蚊帳の外、だったらいいのに、なんやかやそいつらと一緒にいるもんだから周りからは保護者とか言われる始末。幼稚園からずっと一緒なんだから仕方ないだろ。あれだ、心境的には、かごめかごめに閉じ込められている感じ。かごのなかのとりは。いついつでやる。俺はもう出たい。
「高田ー。おまえ昨日コクられてただろ」
「えっ……なんで知ってるん」
俺の発言に高田は驚く。高田のことが好きな松屋は反応する。高田に好かれている織部はのほほん。
「放課後に校舎裏とかベタすぎ」
「見てんじゃねーよ」
「見たくて見たんじゃねーよ。ちなみに先輩全員知ってる」
「わーふざけんな」
俺と高田の会話に割って入ったのは松屋だ。
「え、で、どうしたの」
「は。いや、知らん一年だし断ったよ」
あからさまにほっとした顔をする松屋。
「……………付き合えばよかったのに」
この発言を織部が言ったら、三角関係は動き出したかもしんないのに、口に出したのは俺なので何も起きない。知らんやつとは付き合えんだろー、と高田が笑って終わりだ。ばかめ。ばかばっかだ。俺も含め。
松屋は高田のことが好きで高田は織部のことが好きだ。この三角関係は崩れない。彼らは女の話を持ち出さないし、愛だの恋だの語らない。誰も踏み込まない。わざとなのか無意識なのか。腹がたつ。おい、もう高校二年だぞ、俺ら。どうせ大学は違うんだから、あと一年半しかないんだぞ。
「700円クジ当たったことない」
「マジで? あれけっこう当たるよ?」
「えーじゃあ織部お願い。俺クジ運ねぇわ」
わちゃわちゃと。いつまでオトモダチやってるんだろう、こいつらは。そんで俺はいつまで、面倒見てればいいんだ。
「あっ、日比谷どこ行くん」
「うっせぇばか。外で待ってる」
見てらんないのでコンビニの外に出る。すぐに松屋も出てきた。
「パピさん」
パピコを半分こ。安定のカフェオレ味。いいのか松屋。おまえが半分こしたい相手は俺でいいのか。
「……ありがと」
「最近おまえ元気なくね?」
首をかしげて聞いてくる。肩に髪が触れる。伸ばしすぎだ、早く切れよ。
「松屋。おまえ、高田のこと好きだろ」
「っ、な、」
一気に動揺。瞬時に赤顔。ばかめ。ばかめ、ばかめ、ばかばっかだ!
「や、そりゃ、友達は好きだろ」
なんて今更遅い。それで本当にごまかせると思ってるのか。俺は詰め寄る。メンバーの中で一番髪が長いのはこいつだが、一番背が高いのは俺だ。
「おまえが好きだ」
ひときわ茶色い目を見開いて硬直したそいつにキスをする。これを高田や織部が目撃してればなと思う。俺はそれを願う。
唇を離して数秒後。二人がコンビニから出てきた。わちゃわちゃ楽しそうにやっているところを見ると、俺の期待通りにはならなかったらしい。高田は織部から目を離さないし織部は買った袋のなかを覗いては楽しそうに笑う。
「わり。用事あったんだわ、俺」
ごめんなと言い残し俺は帰る。ブーイングと心配する声。松屋はうつむいたまま、まだ固まっている。
パピコをくわえながら、ひとり歩く。青い空。白い雲。むこうにかすむ山々と、左には黄緑の眩しい田んぼ、右は呑気な住宅街。
角を曲がって交差点に突っ立っていたら、後ろからバタバタと音がして俺はふりむく。
走ってきたやつは俺の前でとまって、むちゃくちゃに荒い息を整える。信号はまだ赤。LEDじゃない信号機。車も他の歩行者もいない小さな交差点。
運動が大の苦手で音楽が好きで、高校を出たら専門学校に行ってしまうそいつは、うまれつき色素が薄くて髪も瞳も茶色い。
「……やり逃げすんなよ」
松屋は顔をあげて俺をにらんだ。
「逃げてない。……俺がいないほうがいいだろ」
信号が青になったので、俺は進む。松屋は隣を歩く。駅までの道。なんでこんなに人がいないんだ。田舎め。
「なんでそんなこと言うの。……てか、さっきのなに」
「俺はおまえのことが好きだけどおまえは高田のことが好きだ。……俺いらないだろ」
「……………」
「好きだからキスした。叶わぬ恋なんだ、一度くらい許せよ」
正確には、おまえのことが好きなのは俺だけじゃなくて織部もなのだと、俺は教えてやらない。
「…………でも高田はおれより織部だ」
さびしそうに笑う、松屋の言葉に俺は驚く。気付いてたのか、こいつ。
「そうだな」
俺が肯定したことで、それはもう俺らの間では確定事項になる。事実がどうあれ。
「……俺と付き合ってよ」
「…………やー、それは……どうなの。あっちがだめならこっち、みたいな」
「出来るだろ。それともおまえ、高田のことそんなに好きだった? 死ぬほど好き?」
「簡単に死ぬとか言うなよ。……いいなって思うくらいだよ。ダチとして一緒にいんのも楽しいんだから」
「…………俺はおまえのことが死ぬほど好きだよ。だからさっきぶち壊したんだ」
かごめかごめの。
安心して毎日楽しい生活。あいつらがあほなことやってんのが楽しい。俺に話しかける笑顔。目まぐるしい青春。友情。その輪を壊すときには松屋の手を取って走り出そうと決めていた。おまえの手を握るのは俺でありたい。しかも片手じゃなく両方だ。ひとりじめだ。
「…………そんなん、いきなり言われても。……日比谷は大人っぽいし、かっこいいし、いい奴だけど」
「付き合えよ。だいたい、おまえ出来るか? 明日から俺のこと意識しないでオトモダチ。出来る?」
「…………っ」
また顔を赤くしてしかめっ面。俺は立ち止まって手を差し出す。松屋は意味をさとって唇を噛む。
しばらく迷って、松屋は手を上に重ねた。
田舎道。でこぼこの道路。連なる民家。あたたかい日差し。少し重たい鞄。通気性の悪い学生服。震えてる指先。柔らかい唇。
公共の場所でキスをするなんて。ばかめ。誰かに見られたらどうする。ごまかせない。学ランの男二人。
でも止まらない。
高田は織部のことが好きで織部は松屋のことが好きだ。でも松屋は俺にかっさわられて俺は松屋のことが好きだ。
狭い部室にホモだらけ。ばかめ。こんな田舎に閉じこもってるから視野が狭くなるんだ。人のことは言えないけど。
「ピルクルさん飲みたい」
「あー俺も行くー。野菜摂りたい」
「日比谷はー?」
「いらーん」
ソファにねっころがって、いつもの読書。パタパタと走る上履きの音。なんであいつらいつも走るんだ。歩くのコマンドはないのか。幼稚園生か。
人の気配がしたので顔をあげる。松屋がいる。いつもだったら、こいつもいなくなるのに珍しい。でももう珍しいことじゃなくなるんだろう。
「まだそれ読んでんの」
「じっくり読み返すやつなんだよ。イヘンサンゼツって言うだろ」
「日本語で喋れ」
「四字熟語だ。勉強しろ」
ソファのかげにかくれてキスをする。いちゃついてとろけてたら、カマキリを見つけたと興奮した状態で二人が戻ってきた。
「やべえ! すげーいっぱいいた!」
「まじキモい! まじキモい!」
また二人は走り去る。松屋も駆けていく。俺はためいきをついて起き上がり、足を勢いよく踏み出した。
★終
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 17