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「……斉藤」
不意に上から聞こえた先生の言葉。
腕の力が緩んで扉の方を振り向くと、数センチ程の隙間から斉藤先生が覗き見ているようだった。
「さ、さっ、えっ、な!?」
突然の出来事に驚き過ぎて言葉が上手く出ない。
まさかさっきのちゅーされかけた時も見られてたんじゃないのか。
俺が先生とそういうことしてるってバレたんじゃ…?
あわあわと一人慌てていると斉藤先生が扉をガラリと最後まで開いた。
「…本当にお二人は仲良しさんですね」
「いや、あの、ち、違くてっ…」
どうしたらいいんだ。
いくら斉藤先生と言えどもこれはまずい。
何か誤魔化す方法はないのか。
ブンブンと手と首を振って否定するけど、それ以外に何も思いつかない。
俺が必死に考えている間、不意に斉藤先生がくすりと笑った。
「あら穂中くん、私は二人がハグしているところを見ただけよ?」
「えっ?あっ、な、なんだ…」
斉藤先生の微笑みにほっと胸をなでおろし安心する。
それなら心配ない。
俺が勘違いして目を瞑ったところを見られていたら、自意識過剰のせいで羞恥が限界突破するところだった。
何やら後ろから稲見先生の小さく笑う声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。
「用意ができたから行きましょうか。あまり遅くなると梨々ちゃんが怒るわよ?」
「い、行きますっ…」
逃げるように給湯室を出て、斉藤先生のデスクへと向かう。
運ぶ物といって渡されたのは調理道具で、行きつけのお店でセールをやっていたらしくこれを機に買い換えた物だそうだ。
ボウルや泡立て器、ミキサーなんかもある。
箱に入ったそれらを積み重ねるように持った。
「…よしこれで全部ね。それじゃあ調理室に向かいましょうか」
俺はこくりと頷き荷物を持ったまま斉藤先生と一緒に職員室を後にする。
去り際に軽く一礼すると稲見先生と目が合って、ドキリと心臓が跳ねる。
そのままにこっと目を細めて微笑まれ、不覚にもときめいてしまった。
「穂中くん顔が赤いわよ?」
「これは稲見先生のせいでっ…先生がずるいんです!」
「そうよね、確かにずるい大人よねぇ。どこまで楽しませてくれるのかしら」
ふふ、と楽しげに笑う斉藤先生。
二人で話しながら階段を登っていると、俺はあることを思い出した。
「そう言えば先生、マカロンの話どうでしたか…?」
「あっ、そうね、すっかり忘れてたわ」
実は数日前に斉藤先生に頼んでいたことがあったのだ。
それは稲見先生がマカロンを食べれるか否かということ。
折角作るのだから先生に食べて欲しいと思っていたけれど、あの日ブラックコーヒーを飲んでいたのもあってもしやと思い斉藤先生に相談していた。
「残念だけど、甘い物は苦手だと言っていたわ。食べられないわけではないみたいだけどね」
「そう、ですか…」
予想していたことだけれど、それが確信に変わってしゅんとする。
イケメンの人って少女漫画によると大抵の人が甘い物苦手なんだよね。
やっぱりあれは正しかったのかぁ。
手作りだから食べて欲しかったけど、仕方ない。
またいつか違う物作ればいいもんね。
「でも大丈夫よっ!穂中くんが作ってくれた物ならゲテモノでも何でも食べてくれるわ、うん、絶対そうよ」
無理やりすぎるフォローに苦笑いしつつ、話題がお菓子の話に変わるとあっという間に調理室に着いた。
「あ、先生〜、もうみんな集まってますよっ」
「ごめんなさい、少し手間取っちゃってね」
「どうせ穂中が原因だろう。桃々ちゃんでは足らず斉藤先生にまで迷惑をかけるとは」
「違うからっ!」
相変わらず理不尽な梨々の言葉につっこむ。
いつの間にか部員全員が揃っていて、俺と斉藤先生の到着を待っていたようだ。
持っていた荷物をテーブルに下ろし、活動を始めていく。
「よし、じゃあ今日はマカロンを作るわよ。レシピはこれを見て作ってね。みんな準備して〜」
はーい、とみんなの返事が聞こえる。
まずは手を洗い汚れないようにエプロンを付けると、早速レシピを受け取り材料を計っていく。
ちなみに作業は三人ずつ一つの調理台を使って、俺と部長と梨々で毎回行っている。
サラサラと聞き心地の良い音を立てながらアーモンドパウダーとグラニュー糖を計る。
それらをふるってダマにならないように細やかな粉状へと変えていく。
部長にはメレンゲを作ってもらい、梨々には中に挟むガナッシュを任せることにした。
圧倒的に楽な俺は二人を手伝いながら、次の作業の準備をしていく。
「あっ、ま、待ってください部長…」
「あぁ、ごめんなさい。ちゃんと心の準備をしておくのよ?」
ふと部長がハンドミキサーに電源を入れようとする所が目に入り、咄嗟に止める。
俺はこの音が苦手で何度聞いても慣れない。
故に事前報告が欲しい。
空いた手のひらで耳をぎゅっと抑え、部長から少し距離を取った。
キュイイインと勢いの良い機械音が鳴る。
塞いでいても聞こえてくる音に体がビクッと跳ねて、梨々が呆れた表情を浮かべている。
しばらくして耳が慣れてくると、塞いでいた手をそっと離した。
「男がこれしきの機械音に驚いていては生きていけないぞ」
「絶対関係ないって…怖い物は怖いからっ」
「貧弱だな。ほら、ガナッシュの完成だ」
「うわぁ、綺麗なピンク色だっ」
とろりとヘラで垂らしながら見せびらかすそれは鮮やかなピンク色で、とても綺麗にできていた。
梨々と話している内に部長の方も泡立て終わったようで、ようやく機械音が鳴り止む。
メレンゲに俺のふるった粉類も合わせ、こちらも同様にピンク色に仕上げていく。
よく混ぜ合わせた後に袋に詰めて円状に絞り焼くだけ、と言いたいところだがマカロンは乾燥させる時間が必要だ。
三人で生地を絞り終えるとひとまず作業は終わって、オーブンを予熱しておいた。
「――うん、どちらもいい感じにできたわね。乾燥させる時間があるからゆっくりとしていましょうか」
隣を見ると隣で製作していた三人も一通り終えたようで、じゃーんとドヤ顔でこちらを見ていた。
拍手を送ると先生に言われた通り、休憩の為椅子に座り一息つくことにした。
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