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彼と一緒にいたいΩの僕が発情期抑えるためにαと番になることは許されますか?~ぼくのうた きみのこえ~
出会い
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スターチャートのレッスンは、まず基礎クラス、そして、ダンス、歌などで初級・中級・上級にクラスが分かれている。
中級、上級クラスになるとさらにレッスン内容は細分化されていくが、クラスの人数は限られる。
そのため春夏秋冬とオーディションを行い、クラスチェンジが行われる。
しかし、どんなに優れていても、一年間は基礎クラスのレッスンに参加しなければいけないことになっている。
もちろん入ったばかりのは璃玖は基礎クラスだ。
基礎クラスのレッスン内容は、主に発生練習やダンスの基本ステップ、体幹づくりなどだった。
ただ、基礎クラスと言っても璃玖の周りにいる研修生たちは、オーディションに向け習い事をしていた子ばかりで、何もかも初心者なのは璃玖くらいであった。
「さぁ、今日も始めるぞー」
スタジオ全体に響き渡るだけでは足りないくらいの声量で、パンッパンッと手を叩きながら登場したのは|相良《さがら》先生だった。
まだ二十代前半の相良先生は現役のミュージカル俳優だ。
主に基礎、初級クラスを担当している。
それぞれ行なっていた自主練は中断して、相良先生を中心に輪になるため、中央に集まっていく。
「全員集まっているかな。さて、見てわかる通り、今日は基礎クラスと初級クラスの合同となっている」
たしかに璃玖が周りを見渡すと、あまり顔を見たことがない研修生がチラホラいた。
「そこで、レッスン内容だが…即興で作った歌を歌ってもらう!」
相良先生のいきなりの発表に、研修生たちは一斉にどよめいた。
もちろん璃玖も動揺を隠せない。
(即興で…歌う…?!しかもみんなの前で…)
オーディション以降、人前で歌ったことがない璃玖は、考えただけで頭の中が真っ白になった。
ただ、璃玖だけでなく、まわりの研修生たちもお互いに顔を見合わせて不安そうな顔をしていた。
「まぁ、基礎クラスはもちろん、初級クラスも初めての内容だ。不安なのもわかる」
そう言いながら、相良先生は眉間にシワをよせながら腕を組み何度も頷いた。
「ただ、今後エチュードっていう即興劇の練習もあるから、今のうちに慣れてもらおうと思っている。まぁ、今日は度胸試しぐらいのつもりでいいぞ」
研修生たちはそれぞれ頷きながら「なるほど」と納得していたが、璃玖はまだ話に全く追いつけていない。
「映画やアニメ、舞台、なんでもいい。作品をイメージして自分で歌ってみてくれ。サビだけで構わないし、原曲に自分の歌詞をつけても構わないぞ」
そう言って相良先生は名簿を手に取り「じゃあ、先輩の初級クラスのやつからいくかな」と言って、初級クラスの研修生を順番に名前を呼んで言った。
即興で歌うというのはやはり難しく、原曲にアレンジをしたり、歌詞を加えたりする研修生がほとんどだった。
中にはミュージカル風に歌ったり、定番アニメソングでキャラクター紹介をしたりして笑いを取るものもいた。
そんな雰囲気の中、璃玖は他の研修生がどんな風に歌っているか、ほとんど耳に入らないくらい余裕がなかった。
(うた…歌…どうしよう…)
何か考えないとと璃玖は必死になるが、わからなくなる一方だった。
「最後は…神山璃玖!」
「…は、はい!」
名前を呼ばれ、つい返事をしてしまったが、璃玖はまだ何も思い浮かんでいない状態だった。
俯きながら真ん中に立ったが、どこを向いても視線を感じ、璃玖は緊張で手が震える。
(うぅ…みんなに見られている…)
中々歌い出さない璃玖に、最初は静かった他の研修生たちもザワつき始める。
ヒソヒソと隣の研修生と耳うちするものや、クスクスと笑い声が聴こえてきて、余計に璃玖は追い詰められてしまう。
(もう逃げ出したい…)
そう考えてしまった璃玖は「歌えません」と言おうとしたところで、言葉を遮られた。
「神山!」
名前を急に呼ばれ振り向くと、一人の研修生と目があった。
(…八神…一樹…君)
目があった生徒の顔と、廊下に貼り出されている写真が一致して名前を思い出す。
少々色素が薄い短髪の茶髪がアクティブな印象の彼が、真剣な顔でまっすぐこっちを向いていた。
「目つむって、考えてみろよ」
そう言われて一樹のアドバイス通り、璃玖は夢中で目をつむって考える。
(イメージ…)
頭に浮かんだのは一冊の本だった。
好きな人を一途に思い続けるが結ばれることがなかったという、大人になると、みんながハッピーエンドではないんだと子供ながらに思った本だった。
(落涙…離愁…いつかみた夢…)
情景を思い出しながら言葉を紡いでいく。すると自然とメロディーが浮かんできた。
璃玖はそのままゆっくりと深呼吸をして、浮かんできた曲を歌いだす。
―好きな人が自分を見てくれないというのは、どのくらい辛いのだろう…。
そんな気持ちを想像しながら一つ一つの音、歌詞をこぼさないように集中する。
実際は数十秒しか経過していないはずが、とても長い時間に璃玖には感じた。
夢中で歌いきるとハァハァと息切れしてしまっていた。
(なんだろう…この不思議な感覚…)
まるで自分が自分でなかったかのような感覚に璃玖は戸惑う。
だが、次第に冷静さを取り戻していくと、みんなが拍手してくれていることに気がついた。
「うん、いい曲だな。歌唱力と体力は…まぁこれからだが、歌詞も曲調も情景が伝わってきてよかったぞ」
そう言って相良先生は璃玖の背中をパシッと叩いた。
「あ、ありがとうございます!」
(やった、褒められた!)
今まで他の先生にも褒めてもらったことがなかった璃玖は、浮かれる気持ちを抑えつつ、元の自分の場所に戻っていった。
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