アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
19 鎖2
-
病院入り口の前を横切り、脇の小道に入る。
熊谷家は病院の中庭を挟んで裏にあった。
中庭に続くその道は緑の小道だ。
森林のかおりに囲まれて落ち着くはずの気持ちは、余計にざわつく。
不安ばかりが胸を騒がせている。
心臓がどきどきしてきて、深呼吸をした。
少し歩くと、視界が開けて色とりどりの花が咲き乱れているのが見えた。
この花は、空が植えたものだ。
気がふれそうな自分の気持ちを慰めるために、一心不乱に植えていた花々。
美しい花たちだが、蒼からしたら空の悲しさが伝わってくるようで、とても直視することが出来ない。
視線をそらし俯いていると、花の向こうから若い男が顔を出した。
彼の手元にはホースが握られている。
そうか。
空がいなくなり、蒼もいなくなった今、この花を世話しているのは彼なのか。
「蒼」
長身のその男は蒼とは似ても似つかない男だった。
Tシャツにジーンズ。
ラフないでたちに無造作に羽織っている白衣。
長袖のそれを少し捲り上げ、彼は庭に水を撒いている最中だった。
細いその目は蒼をしっかり捉えて離さない。
熱っぽいその瞳に蒼もその場で立ち竦んだ。
「陽介……」
「お帰り。蒼」
嬉しそうに微笑み、ゆっくりした動作で蛇口を閉じる。
そして、そっと蒼の前に歩み寄った。
「ただいま」
陽介から視線をそらすことが出来ない。
蒼は、ぼんやり彼を見上げていた。
「お帰り」
蒼の頬に手をあて、彼の存在を確認し、陽介は満足そうに笑った。
「陽介……」
「お帰り。お姫様」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
123 / 869