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20 突きつけられたもの3
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「陽介は、最初からおれに優しくしてくれてね。それに母さんのことがあったときも、『蒼は悪い子かも知れないけど、自分だけは味方になるからね』って言ってくれたんだ。だから、すごく信頼していた。大好きな兄さんだって」
その言葉に違和感を覚える。
蒼が悪い子だって?
それは違うだろう。
空の事件は、蒼には関係ないのだから。
そこで納得する。
そうか。
その陽介という男は、蒼を追い詰め、地獄に突き落としてから救いの手を差し伸べて、信頼を勝ち取ったのだろう。
なんだか卑怯なやり口だと思った。
捻じれた思いを感じずにはいられない。
蒼の淡々とした話に関口は内心、動揺している。
笑顔が温かくて、優しい蒼。
それが。
こんなに蒼を取り巻く環境は、歪んでいるのだ。
「ずっと信じていた。陽介の意見はおれの意見でもあるし、陽介の望む世界はおれの望む世界でもあった」
蒼は母親の虐待によって心をなくした。
そこにやってきた男は、蒼を洗脳したのだろう。
からっぽな器に、自分を満たすのことは簡単だ。
きっと子どもだった陽介にとっても、たやすいことだったろう。
そして、一度染められたそれはなかなか違う色に変えることは出来ない。
蒼は繋がれてしまっていたのだ。
陽介という男に。
「確かに、おれはあの家から遠ざかっていた。でもそれは大学に行って、熊谷という家が全てではないって知ったから。陽介のことは信頼していた。だけど、それと同時に重くも感じられた。自由に生きて行きたいって思って……」
蒼は、ぎゅっと目を瞑る。
逃げ出したくなってしまった。
だけど、逃げても逃げても。
陽介の声は付きまとった。
「今日。初めて知った。陽介は、おれのことを心配して大切にしてくれていたわけじゃないってこと。おれは嫌な奴なんかじゃないって、啓介も言ってくれた。関口みたいに……」
啓介?
今度は弟か?
「なにがなんだか分からないよ。どうしたらいいの?関口!おれ、関口に逢って大丈夫になるって思ってたのに……」
瞳からは涙がこぼれる。
関口は、蒼を力強く抱きしめた。
関口が保証してくれたから自分の背負ってきた荷物は軽くなった。
啓介にも同じことを言われた。
そして現実。
明らかになった真実は荷物を取り払ってくれるだけではなかった。
逆におとずれた混乱に、どうしようもないくらい感情が揺れ動く。
「関口……」
「蒼。そんなやつらの言葉なんか聞くな」
関口は力強く蒼を抱きしめる。
「お前は、おれの声だけ聞いていればいいんだ。蒼は悪い子じゃない。空さんも分かっている。陽介の言っていることになんて、耳を貸すな。二人が言っていることが真実とは限らない。なにが嘘で本当なのか分かるわけないだろう?」
「関口……!」
蒼もしっかり関口の背中に手を回して泣く。
今までみたいな静かな涙では無い。
大きな声を上げて蒼は泣いた。
関口は蒼のことを守ろうと思う。
陽介のような男に蒼が傷つけられるなんて。
許せない。
もう、蒼がこんな目に遭わないように。
自分は蒼を守らなければならないと思った。
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