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34 踊っとけ2
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鳥小屋ができてからと言うものの、餌の補充が朝の日課に加わった。
下っ端の蒼にとっては仕事が増えて、頭が痛いところだが……。
しかし、星音堂にやってくる子どもたちには大人気だ。
まだ人間に慣れていない鳥たちは、人間の姿を見ると逃げていってしまうけど。
ガラス越しに見ていれば大丈夫だ。
いろいろな鳥が飛んでくる。
日増しに種類も数も多くなっているようだった。
昼休みのガラス越しによってくる鳥たちを見つめる。
鳥たちの間でも「口コミ」なんてことはあるのだろうか?
きっとみんなで情報交換しているに違いないと思う。
勝手に妄想をしてニヤニヤしていると、後ろから引っ張られた。
「わわ!!」
ビックリする。
どんだけ無防備だったのだろう?
自分でも呆れる。
腰に回ってきた腕の感覚は。
関口しかいない。
そして。
ガラスに映っている関口が視界に入った。
「ビックリしたよ」
「だって。あんまりぼんやりしているからさ」
彼は蒼の首筋に顔をうずめる。
「ちょ、ちょっと!こんなところで……」
そうだった。
今日は日曜日だし。
関口はヴァイオリン協会の講師で、一日星音堂に缶詰だったのだ。
中庭は、どこからでもみられるようになっている。
蒼は事務所からちょっぴり離れたところで、ぼんやりしていたから。
こうして関口と抱き合っていても、事務からはまったく見えていないだろう。
ちょっぴりほっとする。
これで誰も廊下を通らなければいいんだけど。
「蒼。大丈夫?元気ない」
「そんなことないって。おれは関口の方が心配だよ」
彼の腕に手を添えて、関口のぬくもりを感じる。
暖かい。
「身体大丈夫?毎日夜は遅いし。お酒は飲むし」
「そっかな~」
「そうだって」
「蒼のほうが飲むよ?」
関口の言葉に詰まる。
それを言われたら……。
「だから!関口は慣れてないってことで……っ!」
ぎゅっと向きを変えられてガラス窓に押し付けられたかと思うと、関口の唇が重なる。
「もが!」
話の途中なんですけど!!
蒼は一瞬むっとするが、深いキスにぼんやりしてしまう。
昨日、色々なこと考え込んでいたせいかな?
今日は、ぼんやりしてしまうことが多い気がする。
「蒼?」
案の定。
キスの間にも別なことを考えてしまう。
反応が薄いので関口は顔を上げた。
「は!ごめん」
「蒼」
「なんでもないって」
「でも。昨日から変だよ?おれもずっと蒼と会う時間を取れなかったから。悪いとは思っているんだって。だけど、そう避けることないだろう?」
悪い?
なにが?
いつもだったらそんなことでむっとしたり、なんてありえないけど。
なんだか、昨日からのもんもんで、機嫌も斜めだったらしい。
ちょっとした彼の言葉が気に障った。
なんだか自分が悪者みたいじゃない。
元を正せば、関口の昨日の態度が嫌だっただけだもの。
なのに。
関口の言い草だと蒼のほうが悪いみたいだ。
「悪くなんてないよ。ってか、そういう風に思われたくないし。それに避けてなんていないもん。おれだって忙しいんだから。関口ばっかり、かまってられないんだからね!」
「蒼?」
「関口は関口の好きにやっていていいんだよ?そんなに気使わないでよ」
蒼が急に怒り出したから関口もびっくりだ。
メガネの奥の瞳は「なんで?」って色を帯びている。
「別に!関口に悪びれてもらうこともないし!」
関口の腕をすり抜けて背中を向ける。
こんなこと口走っている自分ががっかりだ。
なに?
なに言っているんだろう。
「蒼。ごめん。だけど、何、怒っているんだよ?蒼?」
「知らない!」
久しぶりの喧嘩だ。
再び関口は蒼を捕まえようと腕を伸ばすけど、それは叶わない。
蒼はすっとすり抜けると、廊下を歩き出す。
「蒼!!」
「おれのことなんか構わないで!関口は関口のやりたいようにやってよ!」
半分走り出す。
「蒼!」
関口の声が廊下に響いた。
どうしていつもいつも、こうなっちゃうのだろう。
事務所に戻るころはすっかり頭も冷えていて、後悔の波に飲まれていた。
「素直じゃないのはおれじゃん」
蒼は廊下の壁に手を着いてうつむく。
謝らなくちゃ。
関口に。
謝らなくちゃ……。
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