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54. ATTO QUARTO1
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ファイナルまでの間は三次までと同じで5日間。
その中で、各演奏者は半日だけオケと合わせる時間をもらえる。
関口の割り当てはステージの2日前だった。
緊張した面持ちでホールに入ると、大掛かりなオーケストラが陣取っていて音出しをしていた。
一気に緊張が走る。
だけど、それはいい緊張感。
これからどうなるんだろうっていうワクワク感だった。
『圭』
顔を上げると、そこにはショルティが立っていた。
彼は指揮台から降り、目の前にやってくる。
『ショル』
『楽しみにしていたよ。この日を』
『……おれも』
『やけに素直だな。約束を果たしたからか?』
『そ、そうだった!本当に蒼に手を出さないんだろうな?』
そこのところをハッキリさせてもらわないと困る。
真剣に見据えるが、彼は笑っていた。
『そう恐い顔をするなって』
『ショル!』
彼は肩を竦める。
『まあ、ここまで来たんだし。一応、約束は守るよ』
『一応ってなんだ、一応って』
『今のところはってこと!』
『なに!?』
『おれは一生、手を出さないなんて言ってないし。これからのことは分からない』
ウィンクされても困る。
関口は悔しさを身体全体で表現した。
ドイツに来てからはや1ヶ月弱。
リアクションが大きくなった模様……。
『き~!騙されたっ』
『圭は蒼のことになると周りのことが見えなくなるんだから。もう少し冷静になった方がいいんじゃないのか?』
『むかッ!』
喧嘩する気はなくても、ショルティと顔を合わせると喧嘩になってしまうから困る。
ステージで音出しをしていた楽員たちも、いつの間にか手を止めて愉快そうに二人を見ている。
『お前に言われたくない!おれの蒼に芸者みたいな真似事させやがって!』
『またむしかえすのか?その話。日本人は執念深いな』
『おれは、まだお前を許したわけじゃないんだからな!』
『恐い恐い。そう恐い顔をしているといい演奏も出来ないぞ』
『悔しい!』
ショルティのほうが上手なのかも知れない。
彼はさっさと手を叩く。
『さあ、みんな。練習しよう!楽しみだ』
にやっと笑う彼の笑顔。
なんだか不安になる。
ファイナル。
どうなるんだろうか。
このショルティと上手くやって行けるのかすら怪しくなってきた。
楽しもうなんて思っていた自分が浅はかに感じられた。
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