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62.棲み家3
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「どうぞ。少し埃がありますけど大丈夫だと思います。今、窓を開けましたから」
すばやい。
佐野はいつの間にか中の換気をしてきたらしい。
手馴れたものだ。
圭に続いて中に入る。
玄関を入ると、廊下がまっすぐに続いていた。
廊下は東西に伸びていて、南側に居間を先頭に居室が並ぶ。
そして、北側にはトイレや浴室、台所が順番に並んでいた。
外から見ると本当にこじんまりした部屋だが、こうしてみると結構広い。
廊下を歩きつつ、居室を見て回る。
行き止まりだと思っていた廊下は右に折れ、居室が見えた。
さっきみた見取り図を思い出す。
そうだった。
L字型なのだ。
庭を囲んで廊下はL字。
全ての居室が庭に面している設計なのだ。
「日当たりがよくていいね」
圭はあちこちを見て回っている。
こんなに部屋があってもな……。
蒼はそう思う。
現時点でワンルームでの生活をこなしているのだ。
急に4つも部屋があってもどう使っていいのか分からない。
佐野がキッチンのほうを確認に行っている間に圭はそっと蒼に耳打ちする。
「居間は食事をするところにして。奥が寝室だろう?それで、あとの残りは二人で半分こしないか?」
「半分こ?」
「そう。一つは蒼が本を置けばいい。書斎にしたら?」
書斎!?
その言葉に蒼の心は揺れる。
憧れているものだから。
「え、で、でも。圭はどうするの?」
「おれは防音の部屋にしてもらって。練習室にしようかと思ってる」
そっか。
そういうことか。
納得した。
部屋数が多いような気がしたけど。
圭にとったら、自分で思う存分練習する部屋が欲しかったのだろう。
それはそうだ。
プロとして活動するようになって、彼が取り組むことは増えている。
練習室一つ持てないのは痛いことだ。
どこかを貸しきるといっても、こういう田舎では満足な施設がないのだ。
「そうだね。そういう部屋が欲しいよね」
自分の我がままで、いつまでもあんな狭い部屋に彼を押し込めておくことは出来ないだろう。
彼のことも考慮してこの話は決定しないと。
蒼は一人で納得して大きく頷いた。
「どうですか?」
突然、佐野が顔を出したのでビックリする。
「いいですね」
圭は笑う。
「気に入った」
「それはよかった。そちらの方はいかがです?」
話を振られて、蒼は苦笑した。
「素敵だと思います」
「それはよかった」
佐野は同じ言葉を繰り返し、笑顔を見せた。
今度は本当の笑顔だろう。
不自然ではないそれを見て、蒼はほっとした。
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