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86.二人の時間4
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分厚い楽譜を抱えて蒼はとぼとぼ帰宅する。
今回も初演。
手書きの楽譜なので、分厚いのだ。
「ただいま~……」
しょんぼりして玄関を開けると、圭とけだもが嬉しそうに顔を出した。
彼はまだまだ療養中。
焦りはあるのだろうけど、もう肝を据えたらしい。
ぶうぶう文句を言うことなく、主夫家業に専念していた。
しかし、たまに桜のところに行って勉強はしているみたいだ。
転んでもただでは起きないと豪語している圭。
なんともたくましい音楽家に成長してきたものである。
「どうしたの?蒼」
しゅんとしている彼。
大事そうに抱えられている楽譜を見て、圭は一瞬で状況を理解する。
今日あたりから文化祭の準備が始まると言う話しを聞いていたからだ。
「なあに?言ってごらん」
エプロン姿の彼は優しく蒼に問いかける。
これでは、泣きながら帰ってきた小学生を優しくなだめる母親である。
蒼も蒼でしゅんとしたままその場で突っ立っている。
「今日ね。文化祭のキャストが決まって……」
「で?」
「あのね。あの」
「シンデレラになっちゃったの?」
「なんで分かるの!?」
顔を上げると、圭は笑っていた。
「そんなこったろうと思ってた。だって、どう見たって、あの事務室でシンデレラできる人は蒼以外にいないでしょう?」
「そんなことないよ。吉田さんだって……」
「吉田さんの声は高いから無理だよ」
こういうところは圭のほうが詳しい。
さすが音楽家だ。
「ほら。ご飯食べよう。ゆっくり話し聞くから」
圭は蒼の手を引き、玄関から上に上げる。
その後をけだもが転がるように付いてくる。
自分はご飯を食べたばっかりのクセに。
また食べる気をしているのだろう。
寝室に行って、着替えをして。
それから居間に戻ってくると、焼き魚のいい香りがした。
中に入ると、圭はソファに座って熱心に楽譜を見ていた。
「なかなか面白いね」
「分かるの?」
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