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94.夢見たものは5
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突然、押しかけて行って会ってくれるかどうかわからなかった。
しかし、蒼の名前だけであっさりと三人は金子の下に通された。
「聞いたことがない名前だからファンかと思えば。確か。田舎のホールの職員さんじゃないの」
蒼の顔を見るなり、金子は苦笑した。
彼はラフな格好で、ヘッドホンを首に下げている。
明らかに練習中だったらしい。
そして。
蒼の後ろにいる圭を見て少し驚いた表情をした。
「あれ?関口くんじゃない」
「どうも」
「あれ?知り合い?あれ?」
彼は蒼と圭の顔を見比べる。
「知り合い」
「そうだったんだ。なんだ。知らなかった」
楽譜を閉じ、彼は「で?」と話しを促した。
「あの!」
蒼は口を開く。
「あの。おれ、星音堂に関する発言を撤回してもらいたくて着ました」
「撤回?」
「そうです!確かに。おれは最低の職員かも知れません。ホールのなんたるかも知らないし。音楽家のみなさんが喜ぶような説明も出来ません」
だけど。
「だけど。ホールのことを悪く言うのはやめてください。おれへの文句ならいくら言ってもらっても結構ですけど。星音堂自体を悪く言うのはやめてください」
金子は椅子に座ったまま蒼を見上げている。
「なんだ。そんなこと言いに来たの。わざわざ」
「そんなこと、って!」
蒼はむうむうとなる。
「おれたちにとったら大切なことなんです。あなたは気付いていないんですか?自分の発言がどれほどの影響があるか。公衆の面前での発言には責任を持ってくださいよ」
「そういわれてもなー……」
困った顔をして圭を見る。
圭は黙って金子を見ていた。
「あなたは、まだ星音堂での演奏を経験していないじゃないですか。一度経験してみてください。どんなに素晴らしいホールかよく分かると思います。音楽ってそういうものでしょう?口で伝えられるようなチャチなものではないってこと。おれだってよく分かっています。確かに、おれの態度が悪かったかも知れないけど。そんなに星音堂を攻撃しなくてもいいじゃないですか」
「それはそうだけど。演奏してみて、はいそうですか。失敗でした。なんてことはおれたち音楽家には許されないことなんだ。分かるだろう?」
金子は真面目な顔で蒼を見返す。
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