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4.にしおりをはさみました!
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4.
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「で?結局鈴ちゃんは誰がお持ち帰りすんの?」
何事も無かったかのような調子で弥斗の口から再びそう振られると、恵愛は三人の顔を見渡してから最後に智早を見つめ上げる。
「…ちーちゃん…」
だめ?とでもいうように首を傾げる仕草。
強請るような甘えた視線で智早の袖を引く恵愛のあまりにも破壊的な可愛さに三人は思わず身悶えた。
普段の恵愛だったら、俺は一人でも大丈夫、と返してくることが大半なのだが、ライブ後の高揚感がまだ収まりきっていない所為もあってか寂しいという感情をストレートに伝えてくる。
弥斗と悠治がお互いに対する気持ちと恵愛や智早に向ける気持ちが異なるように、恵愛にとっての智早はそれこそ"特別"と言えるような存在であった。
智早は今すぐにでもこの可愛い生き物を抱き締めたいという衝動を抑えて、代わりに恵愛の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、恵愛。明日大学午後からだから、恵愛が起きるまで一緒にいてあげる」
智早のその言葉に恵愛はパッと顔を綻ばせてはにかんだ。
「…ありがと、ちーちゃん」
ずるい、羨ましい、などと嘆く弥斗の声など耳に入ってすらいないらしい智早は幸せそうに極上の笑みを浮かべていて、その周りには花が舞っているようにも見える。
そんな二人を後目に悠治があ、と声を上げた。
「そういえば恵愛。親御さん、次いつ日本に帰ってくるって?」
「早くて半年後…、くらいって言ってた。今ね、仕事が良い軌道に乗ってるんだって」
「そっか、結構長いな」
恵愛の両親は父の仕事の都合で一年程前から海外に赴任している。
恵愛を一人日本に残していくことが心配で一時期は母親も残るか、恵愛も一緒に行くかなど色々と苦慮していたが、日本に残りたいという恵愛の意思を尊重し、恵愛の両親とも交流があった智早が主に恵愛の面倒を見るということで解決した。
それでも心配性の両親ーー特に父親は電話やらメールやらを度々してきては、ちゃんと食べてるか、ちゃんと寝ているか、寂しくないか、困っていることはないか、等々掛ける言葉全てがもうすぐ大学生になる高校生男児に向けているとは到底思えない程の溺愛っぷりで、可愛い愛息子が心配で仕方ないらしい。
だからこそ、当初両親はバンド活動も猛反対していたのだが智早や弥斗、悠治の必死の説得により釘を刺されつつも何とか許諾してもらうことが出来た。
恵愛をバンドに誘ったのは智早だったが、今では恵愛もこの居場所が一番気に入っているらしい。
ある一点を除いては。
「なんだかんだでまだライブ見に来てもらったことないし、帰ってきたら見に来てくれるといいな」
そう言われて恵愛はピクリと方を揺らす。
その瞬間フラッシュバックする歓声、熱、サイレン音、声、焦燥、絶望、そしてーー大好きな、人。
「…うん…」
恵愛は特に何か口に出すわけでもなく悲しげに俯いてから曖昧に笑って返した。
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