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「ワイン入ってっから、好きなときに飲めよ」
「選んでくれたんだ」
「気持ち悪い言い方すんな。適当に決まってる」
「嘘ばっかじゃん。これ、俺がワインで唯一飲めるやつだし」
「……うるせえな。お前、まどかに性格似てんじゃねえの」
軽く小突かれてすぐに「じゃあな」と克彦が陸を離す。
寂しそうな顔をしている陸が昔の俺と重なる。
「泣くなよ、陸。いつでも会えんだろ」
「かしゃん、またくる……?」
「ああ、お前が病気しなけりゃな」
「うん! ボクずっと元気する!」
しばらく帰したくなさげにしていた陸だが、克彦が帰ると涙を拭いてワインを抱きしめていた。
「陸、それ飲めないな」
「かしゃんもっと遊びたいぃ……」
玄関に座り込んだ陸が何度も涙を拭いながら言うから、余計に愛おしさが増す。
家族を大切にされて嫌な人はいないだろう。
俺だってそうだ。
「大丈夫だよ。いつでも会えるって言ってただろ?」
「うんっ……」
「優斗が繋げたんだよ。あいつも、陸も」
「……え?」
「お前がいなかったら、俺も陸も克彦もきっと今以上に幸せにはなってなかった。ありがとな」
「…………」
キッチンから顔を覗かせた亮雅さんに予想もしない言葉をかけられて唖然とする。
今以上の幸せがなかった。
それは俺のセリフだ。
亮雅さんや陸、多くの周りの人たちが今を紡いでくれた。
「……ありがとう、ございます」
「おいおい、優斗まで泣くなよ? 泣き顔だけは誰が相手でも苦手だっつったろ」
「泣かない、ですよ。誰が亮雅さんのために……」
「ぷっ、毎回泣くやつがなに言ってんだか」
「泣いてませんって。たぶん、それ塩水です」
「泣いてんじゃねえか」
「ふは……ツッコミ早すぎません?」
まだ瞳をうるうる光らせている陸を抱き上げてプレゼント袋をテーブルに置いた。
青い袋に水色のリボン。
小さなメッセージカードには、『Yuto&Ryoga』と書かれていた。
「……ほんと分かんないです」
「んー? なにが」
「克彦ですよ。一生、理解できないと思います。あいつのことだけは」
「……だろうな、俺もそう思う。ま、優斗も一緒だけどな」
「分かってます」
理解できてしまったら、たぶん面白くなくなってしまう。
克彦はそんな人物のような気がする。
「ほらよ、昼飯だ。陸も一旦プレゼントは置いとくんだぞ」
「あい」
テーブルに並べられた料理たちは、日を重ねるごとに『懐かしい』を更新していく。
きっと今日の"美味しい"も、明日にとってはいい思い出になるのだろう。
「____終わったぁ……」
9月下旬。
原稿20枚ほどの小説がようやく完結し、長いため息をついた。
紆余曲折あって短編ものにしたが、それでも俺にとっては十分に重労働だった。
「優斗、シャンプー買ってくる。陸の宿題見てやってくれ」
「あ、はーい」
風呂上がりで髪がまだ半乾きのままコートを羽織る亮雅さん。
なにも考えずセットもされていない髪はいつものセンターパートではなく、まっすぐに下りている。
同棲していると慣れてきたが谷口さんのとき同様、違和感はある。
「うへへ、ふっへへー、ふははひふ〜」
「……陸、どこでそんな歌覚えたんだ」
珍しくニンジンのぬいぐるみを抱いた陸が、隣で宿題のノートを広げていた。
「みて、ゆしゃん。これハンバーグ」
「ハンバーグ? ハンバーガーじゃないのか」
「うんん。これハンバーグ、おなまえ」
「ぷふ、あーそういうこと。ハンバーガーに名前つけたんだ」
「これ足、こっちがおめめ」
宿題が終わって暇らしい。
ノートに落書きをして遊んでいる。
「可愛いな。そうだ陸、郵便出しに行くからついでに公園行こう。帰ってから宿題見るよ」
「行く! あそぶ!」
衣替えをする季節になって、陸の上着には温かい布地のポンチョを買った。
魚の絵柄がついていることが決め手で陸が選んだものだ。
公園近くにある郵便ポストに出せば、締切日まで余裕で間に合う。
そこまで向かおうと玄関を開けてみると、俺の大嫌いだった青空が一面に広がっていた。
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