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❖にしおりをはさみました!
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「正直、俺もよく分からないんだ」
「分からない?」
コミュ力の高い陸はさっそく友達を作って砂場で遊んでいる。
今は何時だっけ……
「たぶん……見たことがないからだと思うんだけど、性別が同じってだけで嫌う人の気持ちなんて分からないだろ?」
「そうだな」
「だから、どうするのが正解なのか……」
「彼氏はゲイなのか? あの子は」
「元々ノンケだよ。既婚者だったから、陸はあの人の子どもなんだ」
誰にも話すことができなかったのに、スっと口から言葉が出ていた。
相田だったからだろうか。
「へえ……優しい彼氏なんだな」
「……うん、誰よりも優しい人だよ」
胸の内から溢れてくる感情が視界を霞ませる。
変わっていたんだ、いつの間にか。
俺も、周りも。
『誰か……』
聴こえてくる声は、いつも泣いていた。
『誰か助けてよ……っ』
薄暗い部屋の中で、たった1人で膝を抱えた自分。
誰も答えてはくれなかった。
「__名、おい椎名」
「っ! ご、ごめん。ぼーっとしてた」
ハッとして我に返ると、不思議そうな顔をした相田がこちらを凝視していた。
「なんだっけ、話」
「なんも言ってないぞ。大丈夫か? 頭」
「……いちいち失礼なやつだな。というか本当に覚えがないんだけど、どこで会った?」
「さぁて、どこでしょう。椎名の知らないところかもしれない〜」
「なんだよ、それ」
なにか含み笑いをした相田が立ち上がる。
そのとき不意に、思いついたことがあった。
「あ、あのさ」
「ん? なに」
「……小説、書いたんだ。予備の原稿なんだけど、よかったらこれを弟に渡してほしい」
「小説? え、椎名って作家やってんの」
「いや、違うけど。清端出版社のコンテスト」
残していた予備の原稿を取り出して相田に手渡す。
力にはなれないかもしれない。
でも、今の弟の気持ちを一番近くで理解できるのは俺だ。
だからこの小説が、なにか手助けになればいい。
「……すっげーのな。よくこんな文章が書けるよ」
「本は、好きだから。少しだけ」
「さんきゅ。あいつにも読ませたいけど、俺も読んでみたい気もする」
「そんなに、面白くないかもしれないけど」
「随分と弱気だな。借りていくよ、椎名の連絡先を教えてくれないか」
「あ、うん」
同性愛者で困るのは、男との関わり方だ。
どこからが浮気でどこからが不倫なのか、皆目見当もつかない。
亮雅さんが大丈夫だと言っても、本音なのかさえ不明だし。
「陸はヒーローなのだっ!」
「おお、なんか来たぞ椎名。正義のヒーローだ」
「仲良くしてたか? 陸」
「した! 陸のこと好きって!」
「よくここで遊んでる子ども達だよ。ほら、あのちっこいのは通信だから大抵いる」
どれだけ顔が広いのか、相田は子どもたちに親しげに手を振った。
どうして俺の周りはこんなにも陽気でコミュニケーション能力の高い人たちばかりなんだろう。
なんだか悲しくなってくる。
俺の手を頭に乗せて遊ぶ陸がひどく純粋で心が痛い。
「あぶあぶ」
「じゃあ、帰ろうか。そろそろご飯作らないと」
「まじで奥さんだな……彼氏が羨ましいぞ」
「女じゃないから。それに、あの人も料理はできる」
「りょしゃ、ワッフルつくった」
「りょしゃって言うのかぁ、こういうご縁だし今度あいさつしねえとな」
りょしゃ……
そんな可愛い名前の亮雅さんを想像したらいけない。
ギャップに殺されるだけだ。
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