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魔王の話し相手①
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少し前ドストミウルの核が変化してから一度街に出た時、妙な噂を聞いた。
勇者が敗れた、という噂だ。
まだ噂程度の話題で、勇者の勝利を確信していた人々は魔物が流したでまかせだと笑い飛ばしていた。
だが、もしそれが噂ではなく本当の事ならこの城にいるのは勇者に勝利した魔王だ。
鱗の化け物は俺を正面の大きな扉ではなく、正面から少し回り込んだ小さな扉へと招き入れた。
魔王の城に初めて入ったが、予想に反し内部にその禍々しさは見られなかった。少しくすんだ色の白っぽい壁、床には塵一つ見当たらず、所々に花や高級感のある装飾が施されている。
アンデッド共の住処と比べたら大違いだ。ほんの少しだけ羨ましさを感じた。
広間や細い廊下をいくつか抜け、小さな扉の前で止まった。トカゲ男はその部屋をノックした。
「失礼致します。死の王の魂を持つ人間を連れて参りました。」
中から返事がするとトカゲ男は扉を開けた。
部屋は小さな応接間の様だった。
低いテーブルを挟み二人がけのソファーが向き合っている。片側に座っていた人が座ったままこちらを見ていた。
俺はトカゲ男に続いて部屋に入ると、そこにいた人物と目が合った。
小柄で優しい髪色の青年はこちらを覗き見るように立ち上がった。
俺はそいつを知っていた。
「なっ...アンタは、勇者!」
そいつは紛れもなくあの時にドストミウルにとどめを刺した勇者だった。
彼は俺の反応を見ると面白そうに笑った。
「座りなさい。カノル・ファロンス、知りたい事が山ほどあるだろうが僕もゆっくり話がしたいからね。」
忘れることが出来ない程よく覚えているのに、何故かあの時とは雰囲気が違った。顔は同じはずなのに、仕草や声質、目付きまで違って見えた。
俺は怪訝な顔を隠しきれないまま、促されるまま勇者の向かいに座りそいつも座った。
「とりあえず来てくれて嬉しいよ。元勇者第三部隊員、天命の弓カノル・ファロンス。」
「なんで俺の事...アンタは何者だ?」
「話は聞いているからね、死の王から。」
「ドストミウル、から...」
「ああ、僕も自己紹介をしようか、会うのは初めましてじゃないけどね。僕が魔王だ、よろしく。」
自らを魔王と名乗った勇者は、眉間のしわを深めた俺の顔を見てふふっと笑った。
「魔王...アンタは勇者じゃないのか?」
「この間までは勇者の真似事をしてたけどね、飽きちゃったからやめたんだ。人間のフリをして王都で勇者に選ばれたけど、やっぱり剣は認めてくれなかったよね。でもいいんだいい暇つぶしになったから。」
つまりこの魔王は人間になりすまし、この間まで勇者として世界を救うために四天王を倒していたという事だ。
「なんの、ために?」
先程のトカゲ男が飲み物を運んできて、テーブルに置いた。
魔王は置かれた紅茶を一口すすると俺の目を見つめた。
「君も遠慮なく飲むといい。大丈夫さ、毒なんか入れていないから、僕は君とゆっくり話がしたいんだ。」
そう勧められたが、手を出す気にはなれなかった。
「君に聞きたいんだ。君は死の王とどういう関係だったのか。」
俺は視線を逸らすと、考えながら唇を噛んだ。
「その指は死の王に捧げたのだろう。」
そう聞いてくる彼は何だか嬉しそうだった。
「愛していたのかい、死の王を。」
そう率直に聞かれたが、直ぐに答えることは出来なかった。ドストミウルの事はイエスかノーで答えられる程簡単に語れる気持ちではなかったからだ。
「...僕はね、僕の前の勇者が好きだったんだ。」
突然の告白に俺は再び魔王を見つめた。
「ほら、僕の前の勇者は行方不明になったって聞いた事あるだろう。それは僕が未熟なうちに部下に捕えさせて、呪いをかけて監禁したんだ。僕はその後、勇者になって彼を助けて仲良くなったんだ。」
俺はその話に息を飲んだ。 行方不明の勇者とその後に現れた剣に認められなかった勇者、その二つが繋がったのだ。全てはこの魔王の計画だったのだ。
「君と一緒でしょ?男同士だし、異種恋愛だ。」
まるで女子が恋の話をするように、少しうっとりとした顔でこちらを見た。
「でも僕は失敗した。ここに彼と一緒に来て彼に選択を迫ったんだ。僕のモノになるか、ならないかって。僕のモノになればもう世界を脅かすことはしないって条件をつけた、でもね彼は首を縦には振らなかったんだ...」
魔王は寂しそうにひとつため息をついた。
「なんで駄目だったんだろう、君には分かる?」
「殺したのか、本当の勇者を」
魔王は目を伏せた。
「殺せなかった...好きだったからね。逃がしてあげたよ。でも、彼は僕を選んでくれなかったからね、また世界を壊しに行くよ。」
めちゃくちゃな話だ。
好きな勇者を手にするために、恩を売った挙句に世界と自分を天秤にかけさせた。それが想いを寄せる相手にすることだろうか。魔王というだけあって狂った考えだというのは納得できたが、本当の勇者がいたたまれなかった。
「アンタはおかしいよ。到底人間に好かれるようなやり方じゃない。」
「その点、死の王はうまく君の心を掴んだみたいだ。どうやったらそんなふうに上手く行くのか教えてよ。」
「本当にそいつの事が好きだったら、魔王なんかやめて対等に話せば良かったんじゃねえのか。」
魔王の目が鋭くなるのが分かった。
「...君には分からないよ。僕は魔王をやめられないし、彼もまた勇者をやめられないんだ。そういう運命なんだよ。」
怒っている、と言うよりは少し辛そうだった。これでも、不器用ながら頑張った結果なのだろうか。それでも理解に苦しんだ。
「カノル、君は死の王を愛しているかい。」
「ああ、好きだよ。愛してるかって聞かれればそうなんだと思う。アイツが居なきゃ寂しいし、辛いし、苦しい。毎日でも会いたいって思う。触って欲しいし抱いて欲しい。アイツの為なら何だってやってやろうって気になる。忘れたくても忘れられないくらいに、俺はアイツのことが好きだ。」
カノルは視線をこぼさずにそう言った。
「君達が羨ましいよ。」
魔王は目を細めてうなづいた。
そしてまた紅茶を一口飲むと、ゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ本題に入ろうか。カノル・ファロンス、死の王を蘇らせたいだろう。」
俺はそれを聞いて目を見開いた。
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