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火曜日3にしおりをはさみました!
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火曜日3
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「……う……」
──こ、こは……?
目を覚まして最初に感じたのは頭部の強い痛み。次に感じたのは、手首の違和感でした。
見ると、縄か何かで固く縛られていました。
──拘束、されてるのか……
足は縛られていないのを確認し、ふらつきなながらもなんとか立ち上がり周りを見渡しました。
見たことのない場所。倉庫のようでしたが、倉庫より物置き場に近いくらい様々な物が置かれていました。
パイプ、鉄板、木材、ネジやバネなどの小物か何かが詰まった大きなダンボール箱も。
そこには鏡もあり、覗いてみると、頭部から顎にかけて血が固まっているのが見えました。おそらく、気絶させられた時の傷でしょう。
倉庫は、広さとしてはかなり広く、それぞれが種類ごとに積み上げられていました。
電気はついていたので完全に暗くはありませんでしたが、古いのか、かなり小さい光しか出ていません。
人気はなく、誰もいないのがなんとなく分かりました。
「あ、スイッチ……」
手を縛られながらもなんとかしてペンを出し、カチッとスイッチを押しました。スイッチを入れたペンは、壊されないように内ポケットにしまい直しました。
ドアを見つけ、開けようと試みましたが、縛られているせいで開けづらく、さらに鍵もかかっていたのでぴくりともしませんでした。
他に出口がないかと探しても見つからず、あったのは高いところに窓が一つだけでした。その窓も、積み上げられている物で登れば届きそうですが、拘束されていてはほぼ無理と思えるほどの高さでした。
「赤司君が来る前に、なんとか……」
と、ギギギ、という音に振り返ると、丁度赤司君と数人の黒スーツが入ってきました。
「やあ、起きたみたいだね。」
妖しく微笑む赤司君を精一杯睨み返しながら、頭の中でどう逃げようか必死に考えました。
「逃げようとしても無駄だ。出入り口はここ以外ないし、お前は手首を縛られている以上戦闘もほぼ無理。たとえ逃げられたとしても、足でしか逃げる術がないお前に逃げ切れる可能性は、ない。」
透かすように言われたその言葉に、まさにその通りだと思いました。
──つまり、逃げることはできない。伊東さんや紫原君が来るまで時間を稼ぐことしかできない。
「……なぜ、こんなことを?」
重々しく口を開くと、赤司君はまた笑いました。その笑みはいつもと少し違い、どこか赤司君でないような笑みでした。
「決まっているだろう、テツヤ。お前の存在を消すためだよ。」
ぞくっ。
背中から這い上がるような恐怖を飲み込み、「なぜ」と呟きました。その声は小さく、赤司君に聞こえたかもわかりませんでしたが、赤司君はきちんとそれに答えました。
「お前さえいなければ。そうすれば全てが上手くいくんだ。惟葉だって、お前に怯えることもなかった。それに…………敦も。」
紫原君の名前を言った瞬間微かに歪んだ赤司君の顔。それはまるで、紫原君が一番大切だと、好きなのだと言っているようでした。
──それじゃあ、両想いなんじゃ、ないですか…
なのに僕は、それを引き裂くようなことをしているのです。
「確かに……」
赤司君の言う通りだと思いました。
惟葉さんの件はあまり僕には非がありませんが、それでも僕がいなければ嵌めることも緑間君についてあんなに悩むこともなかったかもしれません。
紫原君だって、僕がいなければずっと赤司君の隣に入れたはずです。
二人は今でこそ恋人同士にはなっていませんが、両想いですし、きっと一緒にいればそういう関係になれたのでしょう。
僕の呟きを聞いた赤司君は不敵に微笑み、一歩ずつ前進しました。
「そうだろう?だからお前を消すことにしたんだ。死因はここで殺したあとどうにかすればいい。僕の力ならできる。」
迫ってきた死という現実に晒されながら、何故か僕はキセキのみんなと、高尾君や花宮さん、今吉さんや伊東さんの顔を思い出しました。
「……赤司君は、素晴らしい決断力があって、いつも堂々としていて、僕を先の見えない闇から助け出してくれた恩人のような人です。」
「……?何を、」
赤司君の疑問の声も気にせず、僕は言葉を紡ぎ続けました。
「青峰君はいつも自由で、気楽で、僕のことをテツと呼んでくれた人で、心の底からバスケが好きなバスケ馬鹿です。」
浮かぶのは、青峰君の眩しい笑顔と試合中の楽しそうな目。
バスケ以外で話が合うことはあまりありませんでしたが、大切な僕の相棒でした。
「緑間君はバスケについてもそれ以外でも努力を怠らないとても真っ直ぐな人です。その真っ直ぐさが時々変な方向に向かったりもしていますが、それも彼なりのバスケに対する誠意だと思っています。」
おは朝のラッキーアイテムも、テーピングも、部活のあと一人で残るのも、全て。
全て、彼がバスケに捧げる努力なのです。
「紫原君はいつも気だるけで、お菓子が大好きで、緑間君と違ってバスケにあまり誠意が内容に見えますが、そんなことは全然なくて。きっと本人も否定しそうですが、本当はバスケが大好きな人です。」
それに、と言い加えながら少し笑ってしまいました。
「赤司君が大好きで大好きで、僕のために赤司君と離れた後も、ずっと名前を呟いていたりしていました。」
本当に赤司君が大好きな紫原君。一日赤司君から離れただけでも赤司君欠乏症になりそうです。
それを聞いた赤司君は、驚いた後目を細めながら少し辛そうな顔をしました。
「黄瀬君は本当に誰にでも懐きやすくて、いつも女の子にモテていて、バスケが大好きで、青峰君ととても楽しそうに1on1をする人です。バスケに関してはモデルなんて関係ないくらい集中する人です。」
愛おしさが溢れてきて、止まらなくて、思わず涙が出てきました。
──ああ、せっかく我慢していたのに…意味なくなっちゃいました…
それでも、言いたいことはまだまだ足りません。
「高尾君は、いつもうるさくて、テンションが高くて、たまにというかいつもはしゃぎすぎる人です。それでも、本当に僕のことを心配してくれて、僕が怪我をした時も、涙まで流してくれた優しい人です。」
思い出す「テっちゃん」という声。どんな時も変わらずに呼び続けてくれた名前。
僕がどれだけ感謝してるかなんて、きっと本人は知らないのでしょう。
「花宮さんは、口が悪くて、人を嘲笑うのが好きで、バスケではラフプレーなんてしているありえない人です。でも、それだって彼なりの事情があって、口が悪いのも、ただ単に本音を隠しているだけなんです。」
僕と紫原君が困っている時、快く泊めてくれた優しい人。今吉さんの前では照れてばかりいる人。
「今吉さんはサトリみたいな人で、S気溢れるサドで、花宮さんですら叶わない恐ろしい人です。その上僕たちのために必死になってくれたりするから、どうしても嫌いにはなれない人です。」
花宮さんがとにかく好きな人。男同士の恋でも、堂々としているすごい人。
「伊東さんは、最近知り合ったばかりですけど、とても僕の心配をしてくれて、優しくてイケメンでなんでもできそうな超人です。実際、僕はまだ彼の弱点すら見つけていません。」
知り合ったばかりなのにあんなにも心配してくれて、気遣ってくれて、本当に、素晴らしい人です。
「……どんな出会いも、僕にとっては大切な出会いです。惟葉さんとの出会いも、今はもう後悔なんてしていません。むしろ、出会えてよかったと思います。惟葉さんと出会えたおかげで、僕は沢山の人と知り合って、沢山の想いをもらいました。」
止まらない涙も、きっとその証で。本当に、今までの全てが、大切なものだと思いました。
「……奇跡です。赤司君。」
「……奇跡?」
顔を上げて、赤司君を見つめて。涙が零れても、なんだか僕は笑ってしまった。
「今までの出会いの全てが、です。偶然でも、運命でも、必然でもなくて、全部──本当に全部が奇跡なんです。」
「……どんなに辛い出会いも、か?」
赤司君の躊躇いがちの質問に、即答ではいと答える。
「辛いだけでしたか?その出会いは、辛いだけでしたか?その出会いによってもたらされたものは、辛いものばかりでしたか?」
そんなことはない。
「どの出会いも、全て軌跡です。次の出会いのための、奇跡です。」
僕と惟葉さんが出会ったのも。
みんなと出会ったのも。
黄瀬君と出会えたのも。
全部。
全部。
全部。
全て、軌跡。
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