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アルバムをなぞる指先の決断53
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説明してくれる奏一さんの声が…
なんだか少し遠くに聞こえる。僕がしっかりしなきゃ、しっかりしなきゃ、って思うのに…
『『いらねぇーから、お前らが貰ってやれよ』ってほざきやがってッ!!』
『帰ったらまた泣かされちゃうよ』
『お前なんか知らない!てめーみてーなのとなんて信じられるか!』
『眠ってた時あんなに何度も〝マキ〟って呼んでたのに…』
耳鳴りな雑音が響いて、奏一さんの声がよく聞こえない…。はっきりしない頭で、奏一さんの話に一生懸命耳を傾けて、相槌うつのが精一杯。
事の始まりは、今日の大雪。
彩さんの所に鏑沂先生から連絡があり、今日急遽診てもらえる事になったのを蘭さんに連絡したら、すでに百目鬼さんの実家に、むつ達3人が乗り込んでいた。
神さんの現状がバレたのは、むつのお客のお姉様方が漏らしたのをむつが聞いて激怒。なんでも拡張機の矢田さんに電凸して現状を聞き出し肥大拡大。神さんが療養してる実家に「どうなってんだ!」と乗り込んだ。
(…だからむつには黙ってたのに……)
(…いや、違う、修二にバレたくなかったんだ…。修二に話したら、奏一さんの時みたいに黙ってたことを怒られる、心配される、慰められる…。修二は百目鬼さんのことも、僕のこともよく知ってる。…。そんな修二に慰められたら…僕は……きっと立ってられない…)
(……でも、一番怖かったのは…)
(…それじゃない……。記憶の無い神さんに、修二と会ってほしくなかったんだ)
(僕のエゴた……)
(修二や華南やむつに話したら、確かにむつは暴れる。でも、むつはきっと協力してくれた。修二や華南と一緒に解決策を考えてくれた…、むつはそうゆうやつだ。感情的で、オーバーリアクションで、馬鹿みたいにうるさいけど…。友達想いで…いつも僕なんかを気にかけてくれる。神さんのためにはその方が良かった…)
僕の予想どうり、やっぱり暴れたむつは、華南と修二に止められた。だけど、修二が神さんの味方をするからなおさら現場は火に油。
その現状を聞いて、困った彩さんが渋々奏一さんを召喚。
むつと華南と修二と奏一さんと記憶の無い神くんじゃ、到底まとまる話もまとまらず、とにかく診察して貰える場所まで移動。
その時、神くんはむつと口喧嘩してる中で、「俺は男なんか興味ない!」「あいつが勝手にやってるだけだ」と発言してむつ激昂。「ふざけんな!!ぜってー別れさせてやる!!マキ居なくて困るのはお前なんだからな!バーカバーカ!泣いても許してやんないからな!お前なんかにマキを幸せに出来るか!!俺たちがマキを連れて帰る!!」なんて言うもんだから、神くんは「いらねぇーから、お前らが貰ってやれよ!」と売り言葉に買い言葉。
ただ、奏一さんが会話を聞いてたのは、すでにむつと神くんが言い合ってる所からで正確な言葉は聞いてないけど、流れ的にはこんな感じらしく、確かに神くんは僕の事を蔑ろにする発言ばかりだったけど、修二が言うには、百目鬼さんの実家で、むつが一方的に神さんや神くんを否定する言葉で怒鳴りまくってたのが原因で…
奏一「修二が言ってた。むつの言った言葉は、あいつにとって地雷だって」
マキ「地雷?」
奏一「あいつは…、百目鬼は、自分と関わった人間みんな不幸になると思ってる」
マキ「…」
奏一「百目鬼の母親が出て行く時、母親に投げつけられた呪いだ。……『あんたがいるから不幸になった』」
マキ「!!」
全身に衝撃が走って、奏一さんの言葉がハッキリと聞こえた。
疲労で鈍ってた細胞が冴え渡る。
これは彩さんの言ってた〝意味〟な気がした。
奏一「…百目鬼が…記憶が無いっつっても、こんな尽くしまくってるマキにあんまりな発言が多くてマジでぶん殴っちまいそうだったけど…」
マキ「…や、やめてあげて。奏一さんが本気出したら、神さん病院に逆戻りしちゃう…。
それに、尽くしてるなんてとんでもない、僕は僕がしたいからやってるだけだし、今まで神さんにしてもらった事に比べたら、こんなのほんのちょっとだし…」
うつむいた僕の頭に、奏一さんの優しい手が触れる。
撫でるでも無いその手は、ジンと暖かくて、何だか胸が痛たむ。
奏一「コラ。マキちゃんは俺にゲンコツ喰らいたいのかな?」
降ってきた物騒な言葉があまりにギャップがありすぎてびっくりした。優しい手のぬくもりと違い、奏一さんの表情は、怒りの色が滲む超絶営業スマイル。
マキ「ッ!?」
奏一「自分のこともちゃあんと把握できないお子様なのかな?ん?。…あぁ、マキちゃんはお子様だったわ、とんでもない頑固なお子様だった」
マキ「えっ、違っ…僕は僕の事ちゃんと分かってるし、奏一さん…、奏一さんは神さんの事厳しく言うけど、本当に神さんは僕のした事の10倍やってくれてた。本当だよ。僕はやってもらってばっかで、与えてもらってばっかで、神さんに本当に大切にされて甘やかされて…、僕の人生が変わるくらい…。そりゃ、怒られることいっぱいあるけど、神さん心配性だし、声おっきいだけだし、僕は本当に、暖かい居場所を貰って、神さんにいっぱい甘やかされて…、…、…、…」
奏一「ッ………」
しゅんとして言葉に詰まった僕の気持ちを、勘のいい奏一さんは正確に分かってしまう。
こんな僕は見せたくない、見せたくないけど、神さんの優しさを知ってもらえるなら仕方ない。
怒りに滲んだ奏一さんのオーラが、オロオロしてみるみる柔らかく変わっていく。
マキ「……本当なのに……」
止めの一言で、奏一さんの方が折れてくれたけど、相手は奏一さんだ。
簡単には引かない。
奏一「…、ッ、まぁ、見てないもんは見てないから信じろって言われても難しいな。だってあいつだぞ?怒鳴って、ガキみたいに怒ってばっかで、10コも上なのにむつと変わんない傍若無人なやつが、優しいマキにマキ以上に優しくしてるなんて想像つかない」
マキ「神さんの優しさは、確かに分かりづらいけど、むつと同じだって言うなら、奏一さんなら分かるでしょ?むつが怒鳴るのは元から怒鳴る子だし、熱くなるのは心配性だからだし、むつは、誰より修二に優しいでしょ?」
奏一「……優しいかどうかは置いといて、確かに、修二には必要な存在だ」
マキ「ふふっ、奏一さんにそんな風に言ってもらえるなんて、むつも男上げましたね」
むつが知ったら喜ぶけど、絶対調子に乗るから教えてあげられないなぁ。残念。
奏一「…、マキが側にいるからね」
マキ「え?」
それは、予想もしてなかった一言。
そして、その言葉は真っ直ぐ僕に向かってる。
指し示されたのは、むつだけじゃ無い
奏一「…むつにも、修二にも、華南にも、誰にも無かった発想を、あいつらは持った。それは、小さい頃からあいつらを知ってる俺だからそう感じるのかもしれないけど、3人が変わっていって、色々あって、ゴタゴタの後、俺がマキに出会った時、ああ、3人が変わったのはこの子の影響だってすぐ分かった」
マキ「…」
奏一「俺も、マキのおかげで変われたし」
え?
マキ「奏一さんが?」
信じらんない、奏一さんみたいな大きな存在の人にそんなこと言われるなんて。だって、奏一さんには敵わないもん、僕は、奏一さんに教わってばかりだし…
奏一「何だ、あんな熱弁したのにそんなこと言うのか?」
あっ…
マキ「えっ、ぁっ。僕は、ただ、修二の気持ちを代弁しただけだし、奏一さんの悩みに色々言ったけど、奏一さん自身ちゃんと分かってた。僕が答えを導いたとか、奏一さんを変えたわけじゃ無い、こんがらがった糸を根元から解くきっかけを作っただけだし。解くのは、僕がやってあげられることじゃ無い。奏一さん自身が頑張ったからだし」
奏一「そうゆう所な」
マキ「え?」
奏一「マキは百目鬼の100倍与えてるさ。マキは貰ってばっかだって言うけど、百目鬼も貰ってばっかだって思ってる」
マキ「そんなこと無い!神さんは…」
奏一「本人が言ってたんだ」
マキ「えっ??」
本人?
本人って?
なんで?
いつ?
奏一「百目鬼はいつも言ってる。どうすればいいどうすればいいって、そればっかだ。〝マキを泣かせたくない、あいつに貰ったもんが少しも返せない〟ってな」
マキ「嘘だ…、そんなのいつ」
奏一「んー、君たちがヨリを戻したあたりからかな?まぁ、俺も聞くし、泣かしてないだろうなって」
マキ「だから、神さんは僕を泣かしてなんかないよ。僕が幸せになるような事しかしてない。僕は幸せだ、毎日毎日神さんに幸せしか貰ってない」
奏一「…マキ、百目鬼はそんな風に言ってなかった」
マキ「違う!神さんは僕を大切にしてくれてる!幸せにしてくれてる!」
神さん僕を幸せにしてくれた!
奏一さんには絶対誤解して欲しくない!
だって神さん…
奏一「マーキ」
マキ「ッ」
奏一「そうゆう所もな」
マキ「…も?」
奏一「分かってるから。俺は、誰よりわかってる。百目鬼が変わろうとしてることも、変わったことも。じゃなきゃ、百目鬼が修二と会うのを許したりしない。修二の友達のマキとヨリを戻す手伝いなんかしない」
言わせてしまった…
奏一「こーら、お兄さんの話ちゃんと聞いてるか?そんな顔するな。過去を許せはしないけどこうやって口にできるようになった。俺にとっては一歩前進してる証拠だ。そ、れ、に」
マキ「ふぎゃっ?!痛い痛い!」
意地悪な顔した奏一さんが急に僕の耳を引っ張るから思わず変な声が出ちゃった。
奏一「お兄さんの話をちゃんと聞きなさい。俺に取り繕っても無駄だぞ、俺や彩さん相手なんだからな。もういい加減本音で行こうよ」
マキ「…な、なにが?」
奏一「…」
あっ、まずい…
奏一さんを本気で怒らせた…。
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