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罪と罰にしおりをはさみました!
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罪と罰
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調理補助のバイトは、思っていたよりもかなり居心地がよかった。
環境がいい。働きやすい。そう強く思えたのは、やる気の無さそうなダルい雰囲気の店長のお陰ではなく、八嶋さんという同じ調理場で働く一歳年上の先輩のお陰だろう。
正直、八嶋さんへの第一印象は最悪だった。
バイト初日はアキラが戻ってきてくれて間もなくのことで、嘔吐はしなくなったが体重は戻らず、俺のことも最悪な印象だったのだろう。
「・・・マジか、無理だろ」
呆然と発せられた第一声がそれだった。独り言のような小声だったが、言外に“使えなさそうな奴”と言われたように感じて、思わず俺も身構え、自然と悪印象を抱いてしまっていた。
「楠木亮です。ヨロシクお願いします」
あまり表情を変えずに言うと、次の瞬間、男前な顔を崩して、にかっと笑った八嶋さんにバシバシと肩を叩かれていた。
「まぁ、堅苦しいのナシにして、ナカヨクやろーぜー」
なんだ、コイツ。内心そう思いつつ、その時点で、俺の八嶋さんへの認識は、失礼で馴れ馴れしい変な奴、となっていた。
一緒に働いてみると、八嶋さんは意外なほど仕事に対して真面目で、堅苦しいのはナシとの言葉を裏切るかのように、丁寧に丁寧に仕事を教えてくれた。
「今日は色々とありがとうございました」
仕事終わりに、初めの挨拶の時より幾分か表情を和らげてお礼を言うと、またまた意外なほど八嶋さんの顔が赤く染まった。
「いやいや、そんなん当たり前だし。てか、堅苦しいのナシとか言っといて、仕事中思いッ切り堅くて、悪かったな。やりにくかったろ・・・?」
小声になる八嶋さんに、いつかのアキラの姿が重なり、思わず笑みがこぼれていた。
「いえ、全く初めてのことばかりだったので、俺は、助かりました」
八嶋さんは俺の顔を見て、更に顔を赤面させる。照れ屋なのだろうか。またしても意外な感じだ。
第一印象はすっかり変わり、不器用な照れ屋の好青年なのだろうと感じるようになっていた。
八嶋さんはバイト歴が長いらしく、調理場のことを任されていて、新人教育も担当しているらしく、俺の週2回のバイト日も、必ず八嶋さんと一緒のシフトだった。
一緒に働く内に、徐々に親しくなっていった。八嶋さんが程よく距離を保っていてくれることもあり、人付き合いの苦手な俺にしては珍しく、友人と呼べるくらいの親しみを抱き始めていた。
「そういえば、この間、八嶋さんがさぁ」
何の気もなく、アキラとの会話にも八嶋さんの名前が上ることが多くなっていった。
新しくできた友人のような存在に浮かれて、八嶋さんの名前を聞く度に、アキラの表情がごく僅かに歪んでいたことにも気付かなかった。
俺が気付かずに、アキラの心を抉っていた頃。俺が無邪気に笑っていた、その時に、とうとう、事は起こってしまう。ただ、俺が気付かずにいたから。
───それが、俺の罪なのだろう。
───それなら、アキラの行動も俺への罰だったのだろうか。
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