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驚き
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新を更衣室に残し、再び正面玄関に向かった。
グラウンドからは午前の部が全て終了した事を告げるアナウンスが流れていた。
午後の部開始時間が放送されると、生徒達は続々と応援席を立ち始める。
そうなれば、少なからず更衣室にも誰か生徒が向かうはずだ。
早く新の元に戻ってあげなくちゃ。と、少し早足で歩いていると、正面玄関の前に人影が一つある事に気が付いた。
「………日野?」
それが誰なのかなんて、見た瞬間分かる。
「何してるの?」
そこに立っていたのは日野で、両手をズボンのポケットの中に入れて僕の方をジッと見つめてくる。
「…………」
「……?」
彼の前で立ち止まってみたが、日野は何も喋ろうとしなくて、下を向いたまま、時々視線をチラリと向けてくるだけだった。
「用が無いなら通してくれる?今急いでるんだ。」
「……………」
行く手を塞ぐ様に僕の前に立ち竦む彼にそう言い放つと、日野はぐっと唇を噛んだ。
「い、いっちゃん……」
そして、ようやく日野は口を開き僕を呼んだ。
「……なに?」
続けて、どうしたの?と聞こうとしたら、今度は勢い良く顔を上げ日野は突然泣き始めた。
「浮気はせんって言うたやんかっ‼︎‼︎」
「え」
大声でそう怒鳴られ、驚く間も無く日野はおいおいと泣き続ける。
「なに?浮気?」
「しらばっくれてもいかんで‼︎俺見たきね‼︎いっちゃんが女の子抱っこしながら更衣室入って行くとこ‼︎‼︎」
「女の子?」
「そうや‼︎‼︎女の子や‼︎‼︎あんなに告白は断ってなって言うたのにっ‼︎‼︎」
訳の分からない事を言われ、そんな事したかな?と考えてみたが、思い当たるのは新だけだし。
「日野…それ勘違い。」
「何がやっ‼︎俺のハートは粉々やで‼︎いっちゃんなんかもう知らんっ‼︎‼︎」
「……………」
うぁあああっ、と更に泣き始める。
知らん。とか言いながらも、日野は僕の裾をぐっと引っ張って来る。
「日野、離して。」
「ゔっ…嫌や…離したら女の子のとこ行くやん…」
「だからそれ勘違いだってば。」
「勘違いやない…ちゃんとこの目で見たもん……」
「………」
グズグズとだらしなく涙を零す日野を見ると心底呆れてしまう。
「女の子じゃないよ。さっきの子は女装した新だよ。」
「そ、そんな嘘付いてもいかんで‼︎」
「日野‼︎」
「っ‼︎」
まだ僕の事を疑う彼に対し、少し強めの口調でぴしゃりと言い放つと、日野はビクリと体を震わせた。
「僕の事疑ってるの?僕は今本当の事を言ったんだよ?」
「………ぅ…」
「それに、この学校の女子生徒の制服はブレザーでしょ?セーラー服じゃないよ。」
「…………あ…」
僕の言葉にハッとした日野は、ようやく自分が勘違いをしていた事に気付いたようだ。
気が付くと、日野は小さな声で「ごめんなさい…」と謝って来た。
「いや。僕も怒鳴ってごめん。」
彼が急に大人しくなるから、つられてこちらも何故か謝ってしまう。
「……相手が姫でも…嫌やけんど…」
「……」
ポツリと日野はそう呟くと、僕から手を離し顔を逸らした。
「……なに?もしかして妬いてるの?」
「…………当たり前や…びっくりしたわ…」
拗ねた日野の声がして、何故か自然と笑みが零れる。
「へぇ。」
僕から少し距離を取った日野に近付き、今度は僕が彼の腕を引いた。
こちらに振り向いた日野を正面玄関の壁へと追い込み、少し赤くなる彼の顔を覗き込む。
「なんやいっちゃん……俺今、勘違いしてクソ恥ずかしいき一人にしてほしいがやけんど。」
日野はそう言ったが、僕は日野の前から退こうとはしなかった。
完全に耳を垂らしてしょんぼりとする日野を見ると、どうしようも無くなってきて、あの日野がまさか嫉妬をしてくれるなんて思いもしなかったから……
「随分と可愛い事をしてくれるね。」
可愛い。と、そう思ってしまった。
「ヤキモチ妬かせて可愛い顔させたかったのは俺の方やのに……」
「うん。」
「……びっくりしたで……あんな…」
「だからそれは勘違いだったでしょ?」
「違う…そうやないって…」
「?」
日野もヤキモチ妬くんだ。と、新しい発見をして嬉しいなんて思い笑っていると、日野はびっくりした事にはもう一つ他の理由があると言い始めた。
「……いっちゃんが俺以外の…誰かと…その………えっちな事したりしゆうって考えたら……めっちゃ腹立って……俺、相手が女の子でも殴ってしまいそうになったわ………」
「………」
びっくりした。それはこちらの台詞だ。
日野が言った言葉に対し口を開けてポカンとしてしまう。
「俺……こんなん初めてやわ…やき自分でもめっちゃびっくりした……」
壁に着いた手をぎゅうっと握り締めてしまう。
「そうだね……僕もびっくりしたよ。」
「?」
「………」
勘違いだったとしても、ヤキモチを妬いてもらえる事がこんなに嬉しい事だったなんて知りもしなかった。
「どうしよう…」
日野はこんなの初めてだと言ったけれど、僕もこんなの初めてだ。
「日野…」
早く新の元に戻らなくちゃいけないのに、こうやって、無意識に可愛い感情を向けてくる彼が、僕は心底好きなんだと思い知らされて
「今すぐ…君を抱きたい……」
そう思ってしまった事に、僕はびっくりだよ。
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