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19 side 本宮柳にしおりをはさみました!
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19 side 本宮柳
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“後悔はしたくないから”
久弥の別れ際の言葉が、眼が、深く印象に残った。
そうだ、このままじゃ俺に残るのはただ後悔だけだ。
まだ、俺は何も伝えていない。
何も行動していない。
もう既に、将吾さんの気持ちが俺に無くても。
あの男のことを愛していたとしても。
伝えなければ始まらない。
それが将吾さんを悩ませることになったとしても、悪いけど俺は俺の道を行く。
そもそも、うじうじ悩むのも待つのも、性に合わない。
強引に振り向かせるくらいの方が、俺らしいじゃないか。
それでもダメなら、その先はその時考える。
将吾さんだって、あの時ダメ元できちんと気持ちを伝えてくれたのだから。
例え将吾さんが振り向いてくれなくても、俺はせっかく気づいたこの気持ちを、大切にしたい。
汗の滲んだ手でスマホを握り締め、ひとつ大きく深呼吸をする。
風間将吾の文字をなぞると、愛しさが込み上げてきて。
ああ、なんで二週間も放っておけたんだろう。
こんなにも声が聞きたい。
会いたい。
笑ってほしい、俺のそばで。
Prrrrr…Prrrrr…Prrrrr…Prrrrr…Prr
5度目のコールで、呼び出し音が途切れる。
心臓が、ギュウッと絞まる。
『はい、風間です』
二週間ぶりの声は、どこか少し緊張しているようで。
きっと、あの時の苛立った俺が、謝罪のメールに返信できなかった俺が、この声を出させているかと思うと、自身を叱責したくなる。
「将吾さん、遅くにごめんなさい。
今、電話大丈夫ですか?」
努めて優しく、問いかける。
『うん、平気だよ』
幾分か和らいだ口調に、漸くほっと安堵の息を漏らす。
「ちょっと、話したいことがあるんです。
出来れば、会って直接。
明日、バイトが3時までなので、その後、時間もらえませんか?」
震えそうになる声を抑え言い切ると、将吾さんはまた強ばった声に戻ってしまう。
『うん、わかった。
どこかで待ってた方がいい?』
なぜ、そんなことを聞くのだろう。
カフェに来るのは、嫌になったのだろうか。
いや、ネガティブになるな。
「将吾さんが嫌じゃなければ、カフェに来てください。
その後、何処か移動しましょう?」
『うん。
じゃあ、2時半くらいに行って、待ってるね』
イエスの返事に、心底安堵する。
「いつも、待たせちゃってすみません」
『ううん、あそこのパンケーキ美味しいし、本宮くんのバイト姿見てるの楽しいから、大丈夫だよ』
そんな嬉しいことを言われたら、今すぐにでも気持ちを伝えたくなる。
けれど、やはり大切なことは面と向かって伝えたい。
「じゃあ、また明日……」
『うん、明日……』
「…待ってますね…」
『…うん…』
せっかく久々に声を聞けたのに、切ってしまうのが勿体ない。
将吾さんからも、通話を切る気配は、感じられない。
仕方なく、別れの言葉を口にする。
「じゃあ、お休みなさい、将吾さん」
『お休み、本宮くん』
ツー…ツー…
無機質な音がスマホから流れるが、そんなのは気にならないくらいに将吾さんの声が耳に残っていて。
最後の、少しはにかむような“本宮くん”の声を反芻しながら、久しぶりに幸せを噛み締めた。
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