アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
序章にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
序章
-
ここに、龍希という男が居る。
日尾龍希。26歳、アパレル関係の仕事をし、
今は晴れて1支店の店長を努めている。
それなりに大きなメンズ服のチェーン店だ。
仕事には、誇りとやりがい、そして楽しさを感じている。
何といっても26歳の男性、まだまだ社会人としてはヒヨコだが、仕事にもそれなりに慣れ、毎日、毎日が働く事で過ぎて行く。
それが楽しい。
そんな時だろう。
しかし、華の20代。もう一つ、無くてはならない感情が有るとは思わないだろうか?
そう、恋だ。
人間の感情の中でもとても難しく、限りなく輝いて見えるものかもしれない、恋愛。
龍希もまた、その感情に揺れ動く想いを抱えて今を生きている人間であった。
ずっと、忘れられない人がいた。
龍希が高校の頃、1度は諦めそのひとの前から姿を消す覚悟を決めて、卒業してすぐに実家を出た。
それは、その忘れられない人から離れる為だった。
そう、その人物は、龍希の実家のすぐ隣の家に住んでいたからだ。
忘れようとしても、ずっと変わらず好きだった。
それでも、絶対に無理だと思っていたから諦める為に、何人かとも恋をして、交際もした。
本当に好きになれた人も2人くらいいた。
けれども、2人とも気付いたなら居なくなっていた。
いつも置いてけぼりだった。
1人にされた。
考えてみたならば、幼い頃から自分は1人みたいなものだったかもしれない…と、龍希は思った。
幼い頃から、父には嫌われていた。
そう、今思えば立派な虐待であるような行為に耐えてきた。
母はそれはダメだと思ったのか、
大好きで大好きで離れたくなかった筈の父と別居を選んだ。
父の虐待からは逃れられたが、
最愛の人を失った母が、それを龍希のせいと思うようになった。
そして、育児放棄となり、
龍希は小学生の時に、母の手で児童養護施設に預けられた。
その施設で、中学生になるまでを過ごした。
中学の時に、罪悪感と世間の視線を考え、母親が彼を連れ戻した。
そのせいか、母とは今でも家族にはなれずにいる。
母の事は好きだ。
それでも、家族にはなれていないと思っている。
その微妙な感情は、何とも言えないものだ。
帰る家は有り、母も居る。それでも、帰る場所はなく、家族は居ない。
むろん、本当に家族の居ない人が聞いたならば、
憤慨するのかもしれない。
それでも、龍希にはそれは、ある種の孤独と思えた。
けれど、龍希はそんな事全く関係ないような人懐っこさと、明るさで、仕事場は勿論、何処でも人から好かれる男だった。
本人は解っているかは確かではないが、
目一杯に笑った時のその笑顔は、
それはそれは愛らしく、親しみやすく、
他の者を幸せに出来る程のものだった。
恋の話に戻そう。
龍希はそんな忘れられない恋心を抱えながらも、
何度か別の恋を見つけてきた。
特別変わってなどいない、普通の恋愛歴だ。
けれど、それはただ1つを除いてだった。
それは、彼が友人や、家族である母にも言えずに
隠し続けている事。
日尾 龍希、26歳。
彼は、ゲイである。
………いや、
今、言い方が「おかしな事」「普通でない事」のような、言い方になってしまったが、
それは彼や、彼と同じセクシャルマイノリティな人々の為にも言わせて貰いたい。
1つも、「おかしく」も無ければ、いたって普通で有る。
男だけれど男を好きになり、
女だけれど女を好きになり、
性別の区別なく、その両方を愛せたり、
或いは、己の心の性との不一致を知っていたり。
それらは決して、おかしな事ではない。
彼らには当たり前で、普通の事。
けれども、それを普通とはされぬ環境の中
家族や友人にも言えない恋を、
龍希は今日も続けている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 90