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apr.15.2017 モンキーマジック
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「美味しかったですね。」
「だろ?武本スペシャル。俺も昨日初めて食べたけど、あれはブロッコリー苦手族でも食べられる。」
武本・・・理さんって「タケモト」ですよね。僕の中ではずっと「理」さんなので、ちょっと違和感です。そういえば飯塚さん、武本って呼んでいましたよね。それで僕は理さんの名前を知ることができた。
今日の賄いは飯塚さん作のブロッコリー料理が加わりました。賄いを作っている僕とミネさんの横でお湯を沸かしてサクサク作った一品。理さんが皆に食べさせたいと言ったらしい。
飯塚さんは一言添えるのを忘れなかった。
「理がブロッコリーを克服したのは村崎のレシピだ。それは認める。俺は白飯に合うおかずに進化させた。もう理にとってブロッコリーは苦手食材ではない。好物リストに入ったからな。」
ミネさんの返事は「あ、っそ。」だった。ええと・・・僕も同じですね。その負けず嫌いと理さんへの執着が凄まじくて呆れてしまいました。好きな人の一番でありたいのはよくわかります。わかりますが、ブロッコリーという食材にここまで拘るのは、少し・・・違いませんか?
きっと飯塚さんの中ではイコールなのでしょうね。
「好物になる入り口をこじ開けたのは俺だと思わないか?ハル。」
そして・・・同じくここにも負けず嫌いさんが・・・。
張り合うことは向上心やレベルアップのモチベーションになるのでしょう。でも「お前もなかなかやるな。」「お前こそ。」みたいなやり取りであって欲しい。「お前もすごいが、俺のほうがすごい。」と言い合う二人。仲良しだからいいけれど、険悪厨房チームだったら殴り合いに発展しそうです。
理さんはラテを飲みながら予約リストの確認をしている。今週末は少し静かなSABUROです。来週以降はまた忙しい日々が戻ってくる。
「桜の見ごろは6日以降の見通しだって。」
「じゃあ、9日は大丈夫そうですね。」
理さんはラテを一口飲み込んでリストのチェックを終わらせた。
「雨が心配だけどね。」
「坂口さんのお休み取れたみたいです。今年はどんなお花見と温泉になるのかな。花と花火!楽しみすぎる~。」
「その前に、ミネの誕生日あるだろ?」
「3日は祝日で水曜日。お休みの月曜日は1日ですね。」
「今年はどうしようかな~」
「外でバーベキューは寒いですよね。」
「だろうね。それに花見の日、皆でジンギスカンだし。」
「あ~ですね。また美味しい物作ってワイワイしますか。」
「メニューは衛に決めさせるかな。」
去年はターキーを焼きましたよね。コソコソしながら準備して楽しかったな。
ノンビリしすぎました。もう月の半分を越えてしまったのでプレゼントを決めなくちゃです。何にしようかな、悩みどころです。
「理さんみたいに思い出レシピがあれば、それを作れるのに。」
「思い出レシピ?」
「ハニーマスタードって聞きましたよ?」
「ああ~衛が俺に初めて作ってくれた料理ね。正明は何だった?」
「え?僕ですか?オードブル試作品の試食です。」
「そうか、あの時か。」
「ハニーマスタードは今も食べます?」
「うん。あれ旨いからね。」
ミネさんは大胆にアレンジしてしまったから、飯塚さんのハニーマスタードはどんな仕上がりなのか気になります。
ミネさんが作ってくれる色々な料理。やっぱり朝ごはんかな、でもあのメニューではお祝いになりません。もっとパーティーみたいなドンとしたものじゃなくっちゃ。
「ミネさんのハニーマスタードも美味しかったですよ。たぶん飯塚さんと全然違う料理になっていますけどね。」
理さんの目がキラ~~ンと光った。あ・・・僕、余計な事を言ってしまったっぽい。
「正明、ミネのはどんなの?美味しいんだろ?」
「美味しいですよ。肉はスペアリブです。」
ぐっと強くなる理さんの瞳。星飛雄馬のように瞳に炎がちらちらする寸前です。
「スペアリブ?食べにくいんじゃない?」
「圧力鍋でトロトロにしたのをオーブンで焼くので骨からスルリと肉がはがれます。」
「うわ~~わかる!衛もするけど、なんかしたあとにオーブンに入れて出てきた料理はすこぶる旨い。そしてハニーマスタードの味?うわ~~」
なんかした後・・・それが一番重要なパートだと思いますよ、理さん。飯塚さんのお手伝いはしないのですね。ボケボケしながら待っていたらドカンと料理が目の前に!これが理さんのスタイルですか。
僕はミネさんと一緒に作るのが好きなので、ボケボケするつもりはありません。理さんは女王様みたいです。冠をかぶったお猿さんが玉座(ソファだけど)に座るイメージが・・・いけません、これ以上発展させるとセントバーナードが出て来てしまう!
「きたあかりとインカのめざめのじゃが芋2種使いです。乱切りしたのをじっくり素揚げするので風味も食感お抜群。煮切った白ワインではちみつを伸ばしているので大人の味かな。うわ~思い出したらヨダレが出てきそう。」
「・・・食べたい。」
「え?」
「俺も食べたい!」
「飯塚さんに作ってもらえばいいじゃないですか。」
「だってミネのレシピだろ?絶対素直にウンなんて言わない。」
あ・・・ですね。「お前もすごいが俺のほうがすごい」の二人。理さんが「ミネのレシピのハニーマスタード食べてみたい。」なんて言ったら大変なことになりそうです。「俺達の思い出のレシピを変える必要があるか?村崎のハニーマスタード?却下、俺のレシピが一番だ!」という展開。
「相当ヘソ曲げますよね。ミネさんの腹筋がどうしたこうしたの時もしばらく引きずっていましたし。」
「そうなんだよ。嫉妬されるのは嬉しい時もあるけど、度がすぎると面倒臭いよな。なぜかミネ相手だと衛の反応が過剰になるし。レシピ合戦でより素敵な料理が生まれるのはいい事だけど、過程が面倒くさい。」
「わかります。ミネさんだって「飯塚のレシピなんて木っ端ミジンコにしてやる」って、食材も作り方も大幅に変えちゃったし。」
「なんだろうな、料理人のプライド?」
「ミネさんはそうでしょうね。でも飯塚さんの場合は料理人というより理さんへの執着でしょう。」
「そうかな。」
「例えばトアさんに気に入ってもらえる料理をするとします。もしそこでミネさんに負けても飯塚さんは悔しがると思いますが、しつこくリベンジレシピを考案したりしないと思います。ブロッコリーだってそうじゃないですか。理さんだってミネさんの料理を食べたのオードブル大作戦の時ですよね。」
「そう・・・だな。」
「あれ、何年前ですか?」
「・・・。」
「絶対ダメですよ?ミネさんアレンジのハニーマスタードが食べたいなんて言ったら。」
「ずるいな・・・正明。」
「ずるいって何ですか!もおお。」
「正明は食べる事ができるのに、俺がダメって理不尽すぎる。」
冠をかぶったお猿さん、玉座に座ってダダをこねる・・・。
「駄目なものはダメです。飯塚さんのジェラシーを煽っちゃいけません。SABUROの業務に影響しますから。」
「うううう。」
理さんは何やら考え始めました・・・冠をかぶったお猿さん、悪だくみを画策中・・・。
そんなに食べたいなら自分で作ってみればいいのにね。でも理さんの料理に対する情熱と能力はSABUROで一番低い。(食べる情熱はトップですが)
圧力鍋が蒸気を吹き出している近くには絶対近寄らないだろうし、オーブンの使い方も知らないはず。
「正明、こうしよう。」
「こうしようって・・・嫌な予感しかしません。」
「今年のミネの誕生日は思い出レシピを作ることにする。」
「思い出レシピ・・・ですか?」
「ミネに作ってもらったのでどれが一番美味しかった?」
「全部ですよ。でもしいていうなら朝ごはんかな。幸せな気持ちになるし、一日のスタートに欠かせないですからね。あれが無くなったら僕は職場放棄をすることになりますよ、きっと。」
「朝ごはんじゃ祝いの料理にならないじゃないか。ミネに作ってもらった料理を正明が作ることにするんだよ。色々あるだろ?その中にハニーマスタードを入れてくれ。」
「は?」
「は?じゃないよ。衛に作ってもらえないなら正明に作ってもらう。あくまでも正明の思い出レシピだから衛がゴチャゴチャ言ったところで関係ない。そして俺はお目当てのハニーマスタードを食べる事ができるしね。」
できるしね、って何ですか。
「理さん、ミネさんの為に作る日ですよ?理さんの為の宴じゃありませんから。そこはハッキリ言わせていただきます。」
「やっぱ、そう来たか。正明がウンというはずがないな~って。」
「当たり前です。」
「ちぇ。」
大人なのに、デキル男なのに!口が尖がっていますよ!なんですか、この顔・・・かわいい。
あ~そうか、こういう顔しちゃうから飯塚さんが甘やかすのか。
冠をかぶったお猿さん、拗ねて甘える・・・。
「誕生日のメニューは飯塚さんと相談します。あと・・・ハニーマスタードはミネさんにレギュラーメニューにしたらどうですかって言ってみます。」
「え?」
「皆に試食してもらって決めましょう的な流れにもっていくとして、問題は飯塚さんです。もともとは飯塚さんのレシピですよね?その改訂版がメニューになると揉めませんか?」
理さんはメラメラの瞳を取り戻し、またしても悪だくみ中。切り替え早いですね、もう尖がり口もありません。僕、うまく乗せられちゃったかな。
「ハニーマスタードは美味しい。女性受けもよさそうだから人気になりそう。でも衛のハニーマスタードは俺達の思い出レシピだから他人に食べさせるのは嫌だ。だからミネに改良してもらうことにした・・・どうだ、この流れなら衛も文句を言うまい。」
冠をかぶったお猿さん・・・時に腹黒。
人気メニューが増える、新しいメニューができればお客さんも喜ぶ。結果オーライですが、理さんの個人的な「食べたい。」が理由のメニュー候補。「お前もすごいけど、俺の方がもっとすごい」の上を行くのが理さんってことですよね。
かわいいのか・・・真逆なのか。
SABUROとお客さんのメリットになるからいいことにしよう(いいのかな~)
ミネさんに提案してみたけれど駄目でした、そんな可能性もあるし。言うだけ言ってみてそれからですね、その先は。
ハニーマスタードより、ミネさんの誕生日のほうを先に着手しないと。
セントバーナードさんに・・・相談しようっと。
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