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may.1.2017 宴がはじまります! 2
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カタカタカタカタ
土鍋から勢いよく蒸気が噴出している。そしてお米のいい香り。米だけではなく昆布と酒が入っているから余計に香りが立っている。
俺とハルは仲良く台所に立って作業中。常備菜はサクサク完了したし、洗濯物も太陽の下で揺れている。来週は布団を干そうかな。
「うううう。」
真剣な顔で大根を握るハル。これはこれで可愛いよね。特に真剣な顔が一生懸命さを物語っていて微笑ましい。
「教えてって言ったのハルだぞ。」
「そうですが、予想以上に難しい・・・です。出来る気がしません。」
「そりゃあ最初は誰もそうだよ。でも絶対出来るようになる。指先に神経を集中する、でも力が入りすぎるとザクっと深く刃が入っちゃうよ。大根の繊維に立ち向かうんじゃなくスルリと滑らせる。」
「なかなかスルリといきません。」
「刃をおっつけちゃダメよ。スルッとね。んで上に刃を滑らせる時だけ大根を切る。下に動かす時は切らない。シュルっと上に押し上げてスっと下げる。ほらこんな風に。」
菜切り包丁を上下に動かすと大根は薄い膜のようになって面積を増やしていく。ハルがマスターしたいと言い出したのは「かつら剥き」
切れ味のいい包丁で作ると大根の表面がキラキラと輝く。スライサーのように繊維を分断しないから水に放せばピンピンになるし実に歯ざわりがいい。スーパーのお刺身についている大根はモシャモシャしているじゃない?あれは機械で作っているからどうしても繊維を壊してしまうので、白い色になる。
手で打ったかつら剥きは銀色かかった透明になるから、見た目も素敵。
業務用の機械はけっこう種類があって値段もピンキリ。「回転つまきり君」(どこかの俳優みたいじゃない?)「つま一番」(ちょっとビミョウだよね)「ドリマックス」(大人のオモチャにありそうよね、こんな名前)
そんなのに頼らなくても腕さえあれば美味しい大根にありつける。ポン酢とカツオ節でシャキシャキサラダができちゃうし。
「ゆっくりでいいよ、厚くても剥けるようになったら人参や生姜を剥いてみるといい。俺は生姜を剥いて一皮剥けた。」
「生姜ですか?」
「そうなのよ。生姜剥いたあと大根でやったらワンランク薄さが増した。おお!これだ!ってコツが掴めた。」
「大根何本剥けばマスターできるかな。」
「結構な量だと思う。覚悟したまえ。俺だって毎食大根食べたからな。心配するな、賄いで毎日食べればいいよ。5人いるから俺の時よりずっとマシ!」
ピピピピピ
タイマーが鳴ったので土鍋の火を止める。15分蒸らせば素敵なごはんが出来上がる。でもなんで米なんだろうね。祝いの席で米・・・。
ピンポーン
「トアさんかな?」
ハルは包丁と大根を置いて玄関に向かった。残骸一歩手前の大根はフードプロセッサにかけて冷凍。店のスープの具にすればいい。
せっかくなので残った大根を剥くことにした。さっぱりする大根がテーブルにあってもいいだろうしね。飯塚が調理の主導をとっているなら絶対煮込みかオーブン料理だろうし。
「お疲れ様です。」
両手に荷物を持ったトアとハルがキッチンに入ってきた。
「お~お疲れ。その量・・・なに?」
「理さん指示通りです。売るほどありますよね。」
「そんな量、冷蔵庫に入らないよ。」
「理さんと飯塚さんが持ってくるクーラーボックスに入れるので大丈夫です。氷も買いましたし。」
「その箱なに?」
「あ、これですか?5Lのワインです。」
「5L・・・。」
「ボトルに換算すると7本をちょっと切れるくらいですね。ミネさんじゃないですか、ザルカップルって命名したの。」
「ザルっていうか底なし沼?」
ピンポーン
「あ、お二人の到着ですね!」
ハルが出迎えに向かい、トアは「失礼しま~す」と言いながら冷蔵庫をあけて入る分だけビールを入れた。500缶6本パックが2つ冷蔵庫に収まったが入りきらないパックがあと二つ。俺は呑めても6本がMAXだ。どうすんだ、これ。(そう言いつつ去年もそれなりに消費されていた)
「お疲れ~~あ、なんかいい匂いがする。ごはん?」
サトルが到着。しかも手ぶら。後ろから飯塚がやってきてデカいクーラーボックスを持っている。
「手分けして片付けよう。村崎と俺で処理をして・・・北川はごはんを任せていいか?」
「わかりました。」
「トアは飲み物とテーブルのセッティング。理は・・・じゃあ、これ半分に切って皿にのせてくれるか?」
サトルへの指令が幼稚園レベルで噴きだす寸前だった。あぶない、あぶない。
「処理ってなによ?煮込みじゃないの?」
「ああ、大いに違う。」
ニヤリとして飯塚がボックスの蓋を開けると、緑の紙や新聞紙にくるまれたものが見える。おいおい、まさか。
「よりによって?」
「そういうこと。場外まで行ってきた。」
飯塚の言う場外ってのは札幌の場外市場。朝6:00に開く市場は60の店舗がひしめき合っている。まさかの予想外。魚介三昧なわけね、今日の宴は。
甘エビ、ホタテ、マグロ、イカ、とびっこ、イクラ、ウニ、ホッキ、真ツブ・・・などなど。ど定番のラインナップだけど、新鮮で美味そう!あ~なるほどそれで「かつら剥き」なわけね。
「飯塚、今日のメニューは刺身定食?」
「そんな宴会ダメだろう。祝いの席にふさわしいのは寿司じゃないかって事になったけど、握りは無理だろ?それで手巻き寿司。」
「手巻き寿司!もう何年も食べてない!」
「全員そうだった。楽しそうだろ?」
「それで土鍋ごはんなわけね、昆布と酒入りは寿司飯仕様か。それにしても・・・サトルのミッションが海苔を切るって酷すぎないか?」
「・・・それ以外に何がある?」
「・・・それもそうだよな。」
そこから俺と飯塚は魚介の始末に取り掛かった。ホッキは綺麗に掃除してさっとボイルすると黒い身が赤くなる。ツブは毒をとって・・・白い脂肪みたいのがあって、これを取らないと眩暈を起こす危険部位。北海道でツブを買うことがあったら絶対下処理をすること。持っていないツブもいるので、買う時お店の人に聞くといい。真ツブ、青ツブ、白ツブ、灯台ツブ・・・色々種類があるのよね。
甘エビは殻を剥いて頭どうしようかな。
「飯塚、海老の頭どうする?」
「食べるのが面倒だから俺はいらない。」
「いやいや、飯塚が主賓ではない。」
「村崎の好きにすればいい。」
「じゃあ、唐揚げにする!」
カリカリに揚げて青しそのみじん切りとゴマをふって食べるのが好き。でもね油がとんでもなく汚れるので一回ポッキリしか使えない。
「理さん、海苔終わりました?寿司酢を合わせるので団扇であおいでくださ~い。」
「それなら俺にもできるな。」
海苔を切る。
団扇であおぐ。
今度こそ俺は噴出してしまった。だって我慢できないって。
サトルの出来ることが低レベルすぎて笑える!
主賓はデンと構えてご馳走を待つ。それが常識なのかもしれない。でも気心が知れた仲間と一緒に作るのが楽しいって純粋に思えた。
今流れている時間、この一瞬の連続が俺にはプレゼント。笑顔と笑い声、調理器具のたてる音。
いい香り、彩られていく皿。
皆で「いただきます。」をして「おめでとう。」をもらって「ありがとう。」を返す。
たっぷり食べて、しこたま飲んで、さらに笑顔と笑い声が増えるだろう。そんな時間を共有できる、それこそが贈り物だ。
形になっていないからこそ価値がある。
『SABUROがあってよかった。皆ありがとう。』
俺はこっそり胸の中で素敵な時間に感謝をした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
このあとの楽しい時間は皆さんで想像しちゃってください。
そこまで書いて「楽しい宴会でした~」と提示するよりも、皆さんの中にある登場人物が笑ったり、飲んだりしている想像のほうが楽しそうですよね。
断じて手抜きではありません!(一応言っておかないとww)
せい
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