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chapter29 男前の決意 2/14の朝~夜にかけて
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「半分だけ武本を戻してやる。」
店に現れた課長はそう言った。どういうことか聞いたら、楽しみにしておけと逃げられたあげく・・・
「聞いたところによると、武本は本命の彼女がいるらしいな?」
そうきたか・・・。ニヤニヤしながら今にも手を叩かんばかりの課長をうらめしく思う。
「ソースは飯塚らしいな。渡辺と石川の働きで周知はバッチリだぞ?」
何も言う気がしない・・・というか言うべき言葉がみつからない。
「話は変わるが、実巳は本当に知らなかったんだから責めるなよ?
それと俺はもうお前の課長じゃないから、呼び方を変えてくれないかな?」
「・・・高村さんでいいですか?」
「充さんでもいいけど?」
「・・・高村さんでお願いします。」
「これからはちょくちょく顔だすことになるだろうし、課長ってのが気になってな。あともう一つ。」
「・・・今度はなんですか?」
「もうすぐバレンタインだな~と思って。」
何を言い出すんだ、課長改め高村さん!
「お菓子会社の陰謀に乗っかって愛を告げる日だろ?便乗すればいいと思ってさ。よし今日の話はこれで終わり、じゃあな。」
立ち上がって村崎の方へ向かう背中を見ながら、俺はため息をついた。そのくらいわかっている。
会社を辞めて2ケ月。毎日顔をあわせて、話をして、仕事をして・・・。
近くにいるのが当たり前だった武本の存在が今はない。
ふとした瞬間に「今なにをしているのだろうか」と考えてしまう。用事もないのに電話をしたところで何を話すというのだ。
「何か用か?」と聞かれても何もないのだから考えただけでもバツが悪い。
ようやく顔をみることができても、そこにあるのは仕事モードの武本だ。
村崎と顔を突き合わせて話をしている姿を見ながら、俺の部屋で「至福至福」と笑っていた武本の顔を恋しいと思ってしまう。
前のように家にいけばいいのかもしれないが、休みが合わない。
夜は遅いし、俺の休みの日は当然武本の出勤日。
俺の余裕のなさに比べて、ヤサ男は平気な顔をして「よ、久しぶり」なんて言いやがる。
そうだ、俺は焦っている。
恋人なら、意味なく電話をしたって、用事がなくても顔を見にいってもいい。部屋に入り浸っても問題ないし・・・限界だ、今の俺には武本が足りない。
今度はシャツのようにため込むことは許されないと腹を括る。ヘタレはもうこりごりだ。
2/14がやってきた。今までこの日は繰り返される日常でしかなかったが、今日は朝からずっと落ち着かない。
自分の気持ちを伝えるということは、これほど大変なことなのかと今更実感した。
今まで迷惑に思ってきた自分に対しての想いや言葉の重み。
それに・・・俺が言ったんだった・・・「その気がなければ、今度は断れ。」
断られたら、友達としてつきあってくれるだろうか?そんな関わりを持てるのか?
自信がない・・・顔を見続けて諦められるほど俺は器用ではない。
同じようなことをグルグルと何回も考えて、長い一日が終わりに近づいた頃、ようやく店を出た。
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