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August 1.2015 休憩時間の飯塚と実巳
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「1年早すぎ・・・。もう8月、10月まであと2ケ月しかない!」
村崎のボヤキ。そう、毎度毎度8月から徐々にテンションが落ち始め10月になる頃には、軽い鬱か?というくらいにふさぎ込む。
理由は村崎の言う「暗黒の12月」がやってくるからだ。ダークサイドに堕ちたダースベイダーに自分を重ねて「コーホー」と言ってみたり。
自作のメニューブック(通称ミネ帳)をひっくり返しクリスマスメニューを眺めて去年を振り返る。
そして甦る去年の自分にコーホーと唸る。
毎度毎度・・・・面倒くさい。
「生きている以上季節は巡る。過ぎたことはまたやってくるわけだから、諦めて腹くくれ。」
「クールですね、鉄仮面は。」
当たり前のことだ、クールでもなんでもない。
「落ち込むなら10月までとっておくほうがいい。どっちにしても武本が11月には来るわけだし、去年のオードブルの着手時期の遅さにしばらく怒っていたから、10月くらいからケツ叩かれるぞ?
落ち込んでいたら怒り炸裂だろうな、間違いない。」
「うげ・・・怒ったサトルはマジ怖いのでイヤ。」
俺も嫌だ。本気モードの武本に色恋は関係ない。相手が俺であろうが可愛がっている北川であろうが容赦しない。おまけに正論だったりするので反論も不可能。村崎もグジグジしていたら張り倒される。
「実際問題なんだが、年末や最近の回転率とテイクアウトの出方を見るとスタッフ補充しないと不味くないか?」
「大いにマズイよね。今おじさんが探している。」
「なんで課長なんだよ。」
「情報誌に募集広告だすって話をしたらさ、企画を成立させるために人員の基準があるから、俺に任せておけと言われた。どうやらこの間のハル父との企みに起因している模様。
イソダかニシヤマが絡むと見た。」
課長・・・そして北川父。
北川の父親は中堅どころの広告代理店勤務。発想がユニークで「ぶっこみの北川」と呼ばれ、業界ではなかなかの知名度と聞いた。
少し前ニュースにもなった『kawaii』はTOKYOだけじゃない!とか何とかのイベントの企画もハル父らしい。ロリータやゴスロリを大勢揃えて大通公園を練り歩くというイベント。参加者はすべて外国人を揃えたというから、どこから集めたのか不思議だ。
そのイベントが何のためで利益をどうやって上げたのか、俺には専門外なのでサッパリだ。
思った通り、北川父は課長と同じ種類の人間。ちょいちょいSABUROにちょっかいをかけてくるような気がする。
「男かな、女かな・・・続いてくれるかな~。」
「女は面倒くさい。」
考えるだけでもウンザリする。会社の女子社員が武本に寄せる興味と視線にいつもイライラした。
今は同じ場所にいないから、余計に心配なわけだが・・・。
この店の客の9割は女性なわけで、ここでテキパキ動く武本を見る女どもがどんな反応をするのか。
火をみるより明らかで、俺の精神衛生上よろしくないことこの上ない。
離れていても心配、一緒にいても心配。
「女子はイケメンに敏感だからね~。飯塚もサトルも心配ばっかりし合ってるんだろ?ウザイ女に盗られちゃかなわん!って。その点俺くらいの普通が丁度いいってことよ。」
呑気に村崎はそんなことを言う。
自分の顔は嫌いじゃない、武本の顔は大好きだ。北川はかわいい。
そして村崎は自覚していないだけだ。サラっとしたパーツだし、別段目が大きいとか鼻が高いわけではない。でもランスがいいし笑顔になると一気に輝く。北川がニヘラオーナーなんてからかったりするが、その顔はつい目を止めてしまう、そんな魅力がある。
そのくせ仕事に関してはきっちりしているし常に真剣だ。俺が真剣にやっていたところで、あまり表情にでないから新鮮味がない。
でも村崎の場合は表情の数々で人を魅了する不思議な力を持っている。一番侮れないしハマると脱出不可能なのは村崎みたいな男だろう。
「この間、店の外にいたのは彼女か?」
村崎は「んあ~」と伸びをしながらボンヤリ俺を見た。
「違うよ、彼女じゃない。元カノってやつだ。」
「はあ?」
村崎にまとわりつくように腕を絡めて歩いて行った後ろ姿。てっきり彼女だとばかり。
「俺から連絡したことはないよ。でもね、たまにああやって来るわけ。んでまあ、タイミング?ニーズ?それが合致した場合は・・・まあ、わかるだろ。」
「元カノがセフレってことか。」
それって結構いただけない。俺的には絶対ないし、別れた相手と?いや絶対ない。
「そんなセフレってほど頻繁に逢っているわけじゃないよ。3~4ケ月に一回くらいだし。
たまには人肌恋しい時もあるわけ、お互いにね。
俺はお前が羨ましいよ。」
「なんでだよ。」
「サトルとお前って同じ目的を持って互いを尊重しているだろ?それがとっても羨ましい。」
確かにそれはそうだ。恋人になる前もそうだった。仕事を通して同じ方を向いて努力を重ねてきた。追いついたり、追い越したり、敵わないと思ったり、頑張ろうと発奮したり。
武本は常に俺を刺激し、自分を成長させる存在であり続けている。
「俺思うに女子ってさ、一緒に居るということの意味が俺と違うと思う。
例えば食事にいってさ、俺は盛り付けとか味とか食器とかに目と意識がいくだろ?レシピを想像したり、感想だって聞きたい。
でもそれって彼女達にすれば、なんで一緒にいるのに仕事なの?と言うわけよ。
私と一緒に居る時ぐらい仕事のこと忘れたら?ってさ。だから、一緒に居るってのは、二人で同じことをするって事なんだよ。会話を楽しんだり、二人で一緒にいることを味わいたいって事だろ?そこにある料理は二の次だ。
すべてにおいてそうなる。俺ほとんど店にいるようなもんだし休みったって結構することがある。
何もない休日なんて月に1日あればいいほうだ。
だから皆俺から離れていくわけ。」
「わかるよ、それ。」
「高校時代からずっと、その繰り返し。さすがに恋愛の適性がないって気が付いて、恋愛から遠ざかってるわけ。だから元カノとたまに逢ったりするぐらいが丁度いい。
お前にとってのサトルみたいな存在、そうそう巡り会わないぞ、絶対手離すなよ。」
そういった村崎は笑って見せたが、いつもの笑顔とは真逆だった。どこかさびし気で諦めたような顔。
俺はそんな顔をさせた女達は村崎の何を見ていたのかと問いただしてやりたくなった。
こんないい男をしょんぼりさせる権利が誰にあるというのだ。誰にもない。
「絶対みつかる。」
「絶対?どうかな~連敗続きだぞ?」
「俺は向こうから押されて付き合うが長続きしないパターンを繰り返してきた。好きという気持ちがよくわからないままに誰かと一緒に過ごすこと、それが起こす不具合の数々にウンザリしてやめた。
自分が欲しいと思える相手に出逢ったら口説くと決めてからは断ることを覚えた。
武本は自分を恋愛欠陥人間だと言ったよ。俺と同じで押し切られてつきあって別れるを繰り返してきた。
そしてお互いがお互いを見つけた。同性だったっていうのは予測していなかったけれど。
だから大丈夫、お前はいい男だから絶対に巡り合える。」
「すずさんみたいな人だったら大丈夫そうな気がする。」
「あの人彼氏いるだろ・・・。」
「本当に欲しかったら奪っちゃうよ、俺。」
そう言って笑った村崎はいつものニヘラ顔だった。少し安心するが別の心配が・・・。
たのむ・・・客との恋愛のモツレは勘弁してくれ!
(特にすずさんは絶対ダメだ!)
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