アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
octber 10.2015 理とミネの中休み
-
「リーマンももうすぐ終わりだな。」
ミネにそう言われて、あらためて実感する。来週いっぱいで俺の会社勤めもおしまいだ。
意外にも淡々と時間は流れていて、何か考えることもなく一日が終わっていく。
飯塚が辞めると決まってからの方が、ジタバタしていたと思う。自分のことだというのに、何だか2回目の経験みたいな気がするのは、そのせいかもしれない。
「サトルのスーツ姿も見られなくなるのが、ちょっと残念。」
「そお?」
「そおで~す。なんていうの?俺仕事できちゃいますけど、なにか?って言いまくっている感じ。」
「よくわかんないよ、それ。」
「自信満々、絶対逃げは打たないし背中も見せない的なね。」
「ゴルゴじゃあるまいし。」
「しかし、そのソフトな感じがうまいこと中和しちゃって目が釘付け!なわけだ、女子達が。
なんだか気が重いな、さとるさ~~ん、なんて目をキラキラさせるお客様を横目にイライラする飯塚を一日に何回見ることになるかな。ハルとトアを誘って賭けでもするか。」
「何バカなこといってんの。」
でもまあ、それは想像できる。言ってしまえば俺だって毎日イライラするはずだ。特にカウンター席に陣取る「お一人様軍団」(これは正明が命名した。)
この団員は水面下で攻防を繰り返している、議題は「実巳と飯塚どっちが男前?」
その気持ちはわからなくもない。見た目は衛に一票だが、ミネの笑顔には惹きつけられるものがある。
どっちも捨てがたい。
衛の白衣姿はストイックな感じがして緊張感がある、対してミネの白衣姿はエロい。
・・・エロいというか、なんだろう、着こなしています感?いや違う。あ~色気かな、自信に裏打ちされた働く男だけが持っているものかな。それを客に見せている、いや違うな・・・魅せている!そうそう、これだ。
「お~~いサトルさん、どこに潜ってんの?」
ミネの声で思考から浮き上がる。何を考えてるんだ俺は。
「なに?また新提案?」
「いや。ミネと衛どっちが男前かって考えてた。」
ミネは呆れた顔をして「鉄仮面と比べるな」と笑った。ほらね、この顔、これは中毒になる。
「そんなのね、人それぞれの好みってやつ?俺の場合、飯塚とサトルどっちが男前?って聞かれたらサトルって即答するし。」
いや、なんか照れる。
ふっと浮き上がったのは俊己さんの顔だった。あの日笑っていただろうか?
ニヤリぐらいはしたかもしれない。俊己さんが笑ったらミネみたいにいい笑顔だろう。
「そういえば、この間の命日の日。俊己さんに逢ったんだ。」
「へえ~そうなんだ。 はぁ?! 」
「祟りもしないし化けて出ないって、でも化けてるねこれ。そんなこと言ってさ。最初ミネかとおもったんだよね。なんか似ていたから。」
「なにそれ!そんな「THE怪奇」みたいな経験をいつの間にしてんのよ。驚くなあ、でもどうせなら俺に挨拶してくれてもいいのにさ。身内なのに冷たいな。」
ミネは充さんと俊己さんのことを知らないだろう。たぶん三郎さんもしらないはずだ。自分がこの世を去ってから生まれたミネより、俊己さんが優先したのは充さんだった。でもそれをミネに言っても意味のないことだし、俺が言うことでもない。
俊己さんの青いグラスは店の飾り棚に置かれている。「1年に1度の出番じゃかわいそうだな。」ミネがそう言って飾った。ここからだと店の中見渡せるしねと指でグラスに触れたとき、俊己さんが喜んでいるような気がして何だか自分まで嬉しくなったことを思い出す。
「ミネは頑張っているって言ってたよ。」
「なにそれ・・・恐山のイタコ技まで持ってるわけ?サトルは。」
「そんな技なんかないよ。言われたのは、もっとミネのケツを叩けって。」
「えええ~~まだ叩くわけ?」
「そ、スパンキング王の名称をもらったの俺。」
ブッ!とミネが吹き出した。
「なんかそのネーミングセンス、他人の気がしない。」
「だから、身内でしょうが。」
「そっか、来年は俺も逢えるかもしれないな。来年じゃなくてもいつか逢えたらいいな。」
「そうだね。」
「そうか・・・ケツ叩けか。ってことはさ、俺はまだまだ足りないってことだ、そして伸びしろがあるって事だよね。そう考えたら頑張るのも悪くないって思うよな。サトルに苛められても意味があると思えば耐えられる。」
「いい事言ってるのか、ふざけてんのかわかんないよ、それ。」
確かにそうだ。自分で限界点を定めた時点で人の成長は止まる。まだ行ける、とハッパをかけられて先に見える物を目指す。たとえ自分には見えていなくても、見えた!と誰かが言えば其処に存在する何かに辿りつけるだろう。
人は一人で何かを成し遂げる事は難しい。何より自分に一番甘いのが自分だからだ。
そんな所で止まってないで、いくぞ!そう言って手をひっぱってくれる誰かがいてこそ、先に進める。
「誰かに手を引かれて、ケツを叩かれて。時には自分が誰かの手を引き、ケツを叩く。
それを真剣に出来るのが仲間なのかもしれないな。」
「そうかもね~。去年の今頃はまだ俺はサトルに逢っていなかった。あのオードブルから今日までの時間の密度はすごいものがあるって、よく考える。オヤジが居なくなってキリキリ舞しながら、とにかく毎日を始めて終えることをしていた時間ってさ、何か覚えていることがあるかって言われると・・・あんまりないわけ。
ただただオーダーをこなしていたっていう感覚は残っているけど。
そして飯塚が来るようになって、色々教えるようになった。それからだよ、周りが見えるようになったり、このままじゃじり貧だっていう危機感持ったのは。
やっぱり一人でいると、先細りするっていうか妥協が多くなる気がする。
それを思うと、今のスタッフは最高の人材だよな。それぞれに得意分野があって、目的が一緒で。」
自分の働きで利益をだす、これはサラリーマンでも同じだ。同じ部署の同僚とともに数字達成を目指すが、そこにあるモチベーションは自分の数字をクリアする達成感だ。でもこの数字による利益は会社の利益であって、俺個人の利益ではない。会社の目指す目的と、歯車である社員の目的にはズレがある。社長と社員が同じ思考回路と目的で働いているわけではない。
ああ、そうか、この差なんだと、ようやく納得した。
ここに来ると意欲が沸いてくるのは何故だろうと、いつも考えていた。
SABUROで働くスタッフは同僚ではなく「仲間」で、目的が同じだからだ。
それぞれが縒り合さることで一本の太い糸になっているからだ。
「俺、ここに来れてよかった。毎日が楽しくなるだろうし、これからも色々な壁を越えていくことになるだろうけど、一人で壁に爪をたててよじ登るわけじゃない。」
「そうだね。皆で肩車すれば越えられるよ。一番上はハルだな。」
「また、そんなこと言ってるし。」
「よろしくお願いしますよ、スパンキング王さん。」
ミネは笑いながらコーヒーのお替りを注ぐために立ち上がった。
やっぱりミネの笑顔は最高だ。
その笑顔が曇るぐらい、ケツを叩いてやるよ。貪欲に先を目指そう、皆で。
う~~ん、俺はもしかしたら実巳派・・・なのかな?
(衛には内緒だよ!)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
104 / 474