アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
February.12.2016 『ドライクリーニング』
-
「どうでしたか?」
ハルさんに返してもらったDVDを受け取りながら聞いてみました。ハルさんはどう表現していいものかといった顔で僕を見ています。ですよね・・・ちょっとハードルが高すぎましたか。
「ええっと・・・なんだか・・なあと。誰にも感情移入できませんでした。」
「まあ・・・ですよね。客観的に見るしかない映画ですし。」
「僕はゲイではあるけれど、奔放ではありません。」
「ですよね。あの若者はハルさんと違います。」
「ですよ、僕は人の奥さんとあんなことできません!ついでに旦那さんにも!」
「僕もです!といいたいところですが、そういうシチュエーションになったことがないので、自信はありませんが・・・。」
「ええ~トアさん自信ないんですか?」
「未経験のことはわかりません。」
ハルさんのリクエストは「不条理ものを見てみたい。」というものでした。不条理・・・「欲望」が思いつきましたが、あれは上級者向きです。象徴的なシーンが組み込まれているので解釈が人によって、もしくはその時のコンディションで変わります。これはまだ早い。
そして僕が思いついたのはフランス映画の「ドライクリーニング」
不条理というよりも悲劇ですが、なんともラストに行きつくまでが、それはそれはもう・・・な作品です。でもストーリーがあるので物語は飲み込みやすいのです。以下ネタばれ注意です。とはいえレンタルに揃えている店はほぼないと思いますが・・・。
クリーニング屋を営む夫婦は刺激的なカップルに出逢います、でもこの二人姉弟なんですよ。のっけから近親相姦カップルです。姉と別れた弟君を夫婦は家に住まわせる。もうこれが間違いの始まりで、当然のことながら奥さんとできちゃって、奥さんメロメロ。地下室で事に及んでいるのを目撃した旦那さんは二人の関係を知っている。でも同じ家に住み続けるのです。
奥さん、若者と一緒に生きたいと願います。
旦那さん、カナダ旅行に行こうじゃないか。奥さん行かない!彼といたい!彼と生きる!
旦那さんがアイロンがけしているところに、若者が登場。「僕を愛しているんでしょ。」・・・え?なぬ?
そしてこともあろうか、立ったまま旦那さんのバックから挿入です。旦那さん!あなたも彼が好きだったの?
そしてそのあとの衝撃。
えええええ・・・・・っと。まじですか。うわ~~そうきますか。
ラストはもうこの先に未来はないですねという救いのなさ。ただただ暗い、あ~暗い。
どこにも救いを見いだせないという、フランスですね~な一本なのです。
僕はこれを見終わった後しばらく映画館の席で固まっておりました。
なんという救いのなさ、でも何故か好きと言えてしまう。そう、僕この映画好きなのです。
「これレンタルおちですね。」
「そうなんです。僕のデパートamazonで購入しました。VHSはかさばるので買わない主義だったのでDVDの世界になって嬉しい限りです。」
「少し背伸びをし過ぎたようです。僕にはまだ早かったと思われます。」
「早い遅いじゃないかもしれないですね。好き嫌いは人それぞれだし。じゃあ、同じフランスでも違う路線で行ってみましょう。明日「デリカテッセン」持ってきます。」
「デリカテッセン?デリカ・・・料理の映画ですか?」
「いいえ、肉屋と地底人の映画です。」
「・・・。」
ハルさん、すっかりやる気をなくしてしまいました・・・。でもこれ僕が好きなので是非見てほしいのです。押し付けは宜しくありませんが・・・押し付けます。
「C級の漫画みたいな設定ですね。」
「お、トア、そのDVDなに?」
ミネさんがマグ片手にやってきた。そうそう、ミネさん結構ヘンテコ路線いけるんですよ。意外だったので、僕の中でのミネさん株がズキュンとUPしたのです。
「『ドライクリーニング』というフランス映画です。」
「恋愛もん?」
「恋愛・・・というか・・・なんというか。」
ハルさんはDVDを指差してミネさんに言いました。
「なんだかモヤモヤして落ち込んで、夜なかなか寝られない・・・映画です。」
「へえ、じゃあ貸してよ。」
ハルさん的には止めたかったらしいレンタルが成立しました。
<そして翌日>
「トア、ありがとう。面白かった。」
「ミネさん、面白かった?ええ~モヤモヤは?」
「ふふん、ハル。俺はモヤモヤしなかったよ。これ結構好きだわ。」
さすがです!ミネさん!またもや株が急成長です。
「俺が思うに・・・この若者はボーダーレスの体現だよな。好きになるのに血のつながりも関係ない。人の奥さんでも平気で寝れる、おまけに男だって相手にできる。奔放、若さと美貌で人を惹きつける。
対して夫婦はボーダーラインのかなり内側で生きてきた。ラインを飛び越えてみないか?なんていう誘いじゃない、ボーダー自体持たない存在が目の前に現れた。
そりゃあもう、引っ掻き回されるわな~。はまっちゃうよね~。
残った二人はどうやって生きていくわけ?って考えたらウワ~~怖い怖いって思うけど、ボーダーレスの存在ってたぶん相当エロエロなんだろうな。うん。」
「ああ~ミネさん!!心の友と呼んでいいですか!」
「大げさだな~。」
「・・・・やっぱり僕はまだまだ子供ですね。」
「大人子供じゃないと思うぞ~ハル。」
ミネさんは僕にひょいとDVDを渡してから、ハルさんの肩を抱きました。僕もこういう風にスマートにできたらいいのですが、できません。しょんぼりハルさんにさりげない寄り添い、勉強になります。
「好みがあるし、しょうがないさ。するっと入ってくるものとガシガシいくら噛んでも噛み砕けないものだってあるだろ?本でも映画でもそうなんだよ。だからトアから色々借りて、ハルの中にある色んな所を刺激すればいい。噛み砕けないけれど飲み込めるようになったり、するっと入り込む種類が増えるかもしれない。だから子供だと諦めちゃだめだよ。人の作ったものに対して接触を諦めちゃそこで終わり。」
「ミネさん・・・。」
「そ、俺には作れないわ~って諦めたら、そっから先に進めない料理人に成り下がる。人を喜ばせる物を作る為には、色んな分野の「作られたもの」に触れる必要あるんだよね。日々勉強~なの。俺本はあんま読まんから、トアのDVDコレクション、めっちゃ重宝中。」
ミネさん・・・素敵すぎます。ハルさんの頭をいつものようにガシガシしていてヘアースタイルが大変なことになっていますが・・・。
「ハル、わかった?たくさん勉強しような。」
「・・・はい。」
「うし!トア、またおすすめ期待しているよ~。お、はいはい、今行きま~す。」
ドアからカタログを片手に入ってきたスーツの人とミネさんは打ち合わせらしい。ドアの方に行く後姿を眺めながら、なんだか職人さんって感受性というかアンテナを色々もっているんだな~なんて思ってしまいました。
「ミネさん、めちゃくちゃ格好いいですね。気合いをいれてセレクトしなくては。」
「ですね、ほんと・・・格好いいや。トアさん僕も頑張ります。その肉屋と地底人から。」
ニッコリ笑うハルさん。僕はあんな風に言ってあげられないし。やる気にさせる術もない。
ミネさん、すごいです。
理さんの「ミネ派」・・・僕もこっそり、その派閥に入ろうかな。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
179 / 474