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毎日の続き
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◇
「はい」
「ありがとう」
コンビニから出てきた直輝が肉まんを半分くれる。
寒い外ではホカホカの肉まんから上がる湯気が美味しそうな匂いと一緒に空気に混じって鼻に触れるからお腹が空いてきた。
俺も持っていたあんまんを半分にすると「いただきます」と言って早速食べ出した直輝に手渡した。
「昔良くこうやって帰ったよな」
「うん。 懐かしい」
「チャリ通禁止だったのにチャリで2ケツして行った日とか先生に怒られた」
「あれは直輝が悪いんだよ」
「でも祥も止めなかっただろ」
「止めたって聞かないんだから、付いていくしかないだろ」
「ふっ、別に俺だけ行かせても良かったのに」
「……一人より二人のがいいじゃん。 怒られても半分だし」
「……」
懐かしい話をしながら俺達は雪の積もった道を歩いていた。
サク、サク、と雪の日でしか聞けない音がする度に楽しくなってくる。
近くを折角だから散歩しようかって出掛けた俺達は行く宛は決めてなかったけど、足取りは自然と昔二人でよく歩いていた学校への道だった。
「どこ行くのって聞かないんだな」
「聞いても聞かなくても一緒だから」
「なんで?」
「……どうせ俺、直輝が行くならそこに行くし、行かないなら行かない。 聞いても聞かなくても、行く場所は同じ場所だし」
「ふーん」
「……だってそうだろ。 結局、俺達今一緒に居るのとかこの三年間ちょっと馬鹿らしく思えてくるよ」
「そっか」
現に俺は直輝が現れた途端、たかが一ヶ月で耐えきれなくなってるんだし情けないけど事実だから少し胸が痛くなった。
「でもお陰で俺は分かったよ」
「なにを?」
いつの間に食べ終わったんだ。
まだ俺は肉まんも食べ終わってないし、あんまんも残ってるのに相変わらず直輝は食べるのも早い。
ほんの少し遠くを見つめながら直輝はしゃんとした顔つきで、白い息を吐きながら静かに話を続けた。
「未来(サキ)のことは分かんないからさ」
「うん」
「本音言えば絶対嫌いにならないとか、そういう不確か過ぎること俺は言いたくないんだよな」
「……うん」
「そんなん口だけだって思うし。 信じてくれって言えない」
「……、……うん」
チラリと目だけを向けてくる。
頷く度に少しずつ、声が小さくなっていく俺を見てくる直輝が今から何を言おうとしてるのかは何となく分かっていた。
「でもさ、思った事もあった」
「なに?」
「祥は俺の未来を守ろうとしてくれただろ。 俺が考え無しにならないように、一度離れるべきだって。 それを三年前の俺に言っても俺は聞かなかった事もお見通しだった」
「……」
「でもあの日。 舞踏会の日にさ、祥があんなに怒って俺に感情的に思ってること言ってきたのが今迄こんだけ一緒に居ても初めての事で驚いたし、ぶっちゃけ結構キツイとも思ったけど。 改めて考えるにはいいきっかけだった」
その日のことを思い返したようにクスクス笑いながら直輝が肘で俺の肩をこつく。
酷い事言ったのは自覚があるからなかなか笑えない。
でも直輝はもう水に流そうって言ってる様に笑っていた。
「未来は勿論大事だ」
「うん」
「俺達一分も一秒も未来の為に生きてる様なもんだし」
「そうだね」
「必死に働いたり勉強したり。 それって結局大まかに言えば未来(サキ)の為に備えてるようなもんだしさ」
「うん」
「でも」
「うん?」
「結局、未来も大切なんだけど」
「うん」
「俺は祥も大切なんだよなー」
「……何だよそれ」
「未来を見て、今が見えなくなるなら、未来よりも、現在(イマ)を取るってこと」
「……」
「確かに考え無しで行けば近い未来誰だってバカを見るだろ。 でも嫌な事も良くない事も今の俺達がどれだけ警戒してても、備えてても、準備してても、必ず起こる」
「……うん」
誰も歩いてない道に足跡が二人分。
真っ白な雪の上に俺達の足跡が、歩いてきた跡が、残っていた。
「だからさ」
「うん」
「一緒に居ようよ」
「……」
「三年前みたいに凝り固まった考え方で言ってるんじゃないのだけはわかってほしい」
「分かった」
「離れて、祥の本音を聞いて、今の俺が考えた気持ちだから」
「うん」
サク……と音を残して直輝が立ち止まる。
俺も釣られて歩みを止めれば直輝の手が俺の手に触れた。
「どうせ未来(サキ)の事は分からないから。 一緒にいたい」
「……」
「別れるかもしれない」
「……うん」
「今度は俺達お互い嫌いになって別れる日が来るかもしれない。 そんなの分からない事だけど」
「うん」
「俺、毎日が好きだよ」
「え?」
「毎日、祥が好きだってこと」
「意味分かんない。 なんだよそれ」
「笑うなよ」
「だって」
「今日も祥が好き」
「ーーッ」
「今日は、じゃない。 今日も祥が好きだよ。 だから明日も俺は"今日も祥が好き"って一日が終わる度に思う」
「……」
「それがいつか終わる日の方が俺には想像出来ない」
「はっ。 直輝さっきからめちゃくちゃ。 未来は分かんないんだろ?」
「でも現在(イマ)になれば分かる。 明日も明日じゃ無くなるし、10年後も今日になる」
「……」
「だからさ。 俺は未来でも、この先も、絶対なんて好きとは言わないけど」
伸びてきた手のひらが頬に触れる。
冷たい空気に冷えた身体にはしみこむように暖かい温もりだ。
「今日も好きって言う事にした」
ーー何だよそれ、バカじゃないのか。
そう言って笑ってやろうとしたのに、唇が震える。お陰で上手く口角が上がらなくて、寧ろ下がってしまうから、握られた手をギュッと強く握ったら同じくらい強く握り返されて、鼻の奥がツンとした。
「だから祥さ、俺と一緒に生きてよ」
「ーーッ!」
「今日も明日も、ずっと。 二人で考えて必要なら距離だって置いて構わない」
「……」
「俺と生きる覚悟、いつかして欲しい」
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