アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
嫉妬と本音は五歳児
-
まるで俺が変わった様だとでも言いたげな言葉に思わず剣呑な声が漏れた。
三年間お互いに知らない場所で時間を過ごした。そんなもの当然だろう。性格だって変わる。取り巻く環境が変わって、担う責任も、未来への重責も変わるんだ。それを受けて思考して生きていく中全く変わらない人間なんていないだろう。
それこそ祥の言葉を借りるなら俺達はもう学生じゃない。
そう、学生ではなくなるから祥は俺への未来を手放したと言うなら、手放さない為に大人として抜け道を探して道をただして作らなきゃならないだろう。汚いことも卑怯なことも嘘もつくし騙すことだってしなきゃ到底俺達の関係は受け入れてもらえない。
そういった心構えで俺は一年間準備をしてきた。
誰にも邪魔されないように、なるべく祥が傷つかないように。
幸せにしてもらうだけは嫌だ一緒に幸せにならなきゃ意味が無いんだと言った祥の想いに応えたかったから。
なのにその考え一つも理解しようとしないお前は一体なんなんだ?
「俺が性格悪いなら、お前は身勝手だ」
「……っ」
「あれだけ酒はやめとけって忠告しておいた。自分が何したか分かってんの? 分からないから、理解が出来ないって言うなら同じことを今すぐここでしてやれば分かるか?」
「だから、謝りたかったのに少しもこっちを向いてくれなかったのは直輝じゃん!」
「よく言う……。後回しにしたのどっちだよ?」
嘲笑が漏れた。低い声に傍らで立つ祥の細い肩が悚然と揺れる。
祥が謝ろうと必死になっていたのは知っている。天邪鬼にとって、素直に言葉を乗せることが普通の人よりどれだけ緊張して恥ずかしく気使うことなのかは長い付き合いで知っている。
知っていて逆手にとった。拒否した挙句に責める俺は卑怯なのも承知だ。でも俺は祥の親父じゃない。恋人で、その恋人に理解して貰いたいと思うのは俺も等しく抱く感情で、欲求なんだ。
「お前は、俺がいつだって笑って何でもかんでも許して無かった事にすると思ってんのかよ」
「そんなことは、思ってないよ……。直輝に迷惑かけたのも、それにもし俺が同じことをされたら、きっと」
「きっと……、なに? まさか俺の気持ちが分かるとか言わないよな?」
皮肉気に口端が持ち上がる。
薄く冷たい笑みをいくら唇に乗せても瞳は素直だ。怒りを孕んだ視線に祥は青白く顔を染めた。
「俺の気持ちが分かるならこんなに何度も同じことなんかしない」
「ッ、ごめん」
「何に謝ってんの? 昨日のことか? それとも戻ってきてから今日迄の全てのことか?」
蓄積されていた瘤を引っ掻くように吐き出た言葉に祥は瞠目しやがて思案する。思い当たる節が無いのだろう。祥にとってはもうすっかりと気にする必要も無い済んだものとなっているのだから。
「よりを戻して終わりか」
「どう言う意味?」
「祥はこの先どうするつもりなんだ? 昔と同じくよりを戻してただ過ごして揺さぶられればいとも容易く終わりにするのを繰り返す?」
意地悪く祥の罪悪感を揺すれば眦を微かに釣り上げた表情で祥が俺を見る。
「そんなこと、するつもりなんてない。俺は俺なりに考えてる」
「ハッ、考えてるか。何をだよ? 考えすぎて頭の中が空っぽになってんのか?」
「ッだからそういう言い方が性格悪いって俺は言ってるんだ。回りくどい言い方しないで言えばいいだろ」
さっきまで怯えていた癖に今は全く泰然と構えてる様子が気に食わない。
「俺は、祥との時間を少しでも大事にしたい」
「え……?」
すっかり喧嘩腰のまま罵倒されると身構えていたんだろう。思わぬ科白に祥は肩透かしを食らったかのように、目を瞬かせた。
「離れていた分も取り替えしたくて少しでも暇を作って出来れば祥との時間を過ごしたかった。些細なものでいいから、たった数分でもだ。これからは必ず昔の様に気軽くは会えない。だから邪魔が入る前に。そう考えてた……でも祥は違う。俺だけが焦ってるのかと思うと、笑えてくる」
ぽつりぽつりと零れた情けない本音は、お似合いなほど意気消沈していた。
そして今から尋ねる言葉は、随分と長いあいだ奥深くに隠してきた。触れずにきた本音。
「祥にとって俺の存在価値はなんだ?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
477 / 507