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初めまして高校生くん
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「悪いんだけど俺ほんとにあんたの事嫌いで、
万が一にも付き合うとかないからさ、
きっぱり諦めてほしいんだけど」
先日、21年生きてきて初めて好きになった相手に
そうやってこっぴどくフラれた。
数日泣いたけれど、自分はまだ21だ、恋愛に焦る必要ない、なんて
一周回ってポジティブな考えをした僕、七海夕は
とりあえず向こう一年は仕事に打ち込む事を決意した。
「性格なんだよな~……」
けれどやはり簡単には割りきれないくて、思わず仕事中にため息が出てしまう。
好きだったその相手は男で、僕も男で。
好きだってバレたら絶対気持ち悪がられる、そう思った僕は、
相手を前にすると昔流行った美少女戦士アニメの曲の歌詞並みに終わってしまう思考回路のせいで
顔に出まくりそうになる恋愛感情を必死に抑えて、
抑えるために嫌味ったらしい言葉ばかり言って。
そのせいでどん底にまで好感度が下がったらしく。
ほんとに嫌い、とまで言わしめて、自業自得なのに早退して部屋でめちゃくちゃ泣いた。
素直じゃない自分の性格が妬ましい。
「七海さん8番テーブル片してくれます?」
「は~い、高槻さん」
そしてその相手は、職場、僕の働くカフェの同僚、今まさに目の前のこの高槻という男。
反則、とレッドカードを突きつけてやりたいほど整った顔と甘い声、
さらには身長も高くて子供にも優しい、
ついでにイケメンしか着こなせないと噂のうちの制服も似合いすぎている完璧男だ。
嫌いだとフラれてからすっかり引っ込んだ僕の嫌味のおかげか、
今では険悪とまでいかず、普通に職場の同僚として接することができている。
「七海さん、こんにちは」
「あっ、高岡さん、こんにちは!
いらっしゃいませ~、今日はテイクアウトですか、お召し上がりですか~?」
「じゃあ食べてきます、七海さんついてくれるなら」
「はい、よろこんで~」
テーブルを拭き終わると、不意に声がかけられた。
振り返れば僕のお得意様である高岡さんが居て。
すごく美人な女の人で、立ち居振舞いも品があるまさに憧れの女性、という感じ。
そんな高岡さんは有り難くも僕の接客を気に入ってくれていて
いつもカウンターに座って僕を指名してくれる。
「いつものでよろしいでしょうか……
あれ、恋人さんですか~?」
「ふふ、やだ、弟ですよ。
今日は買い物帰りに一緒に連れてきたんです」
「あ、そうなんですかなんかすいません~。
ええっと、弟さんはご注文はお決まりですか?」
「あー、っと……じゃあ同じやつで」
「かしこまりました~」
す、と綺麗に座る高岡さんの横に、別のお客様だとばかり思っていた
少し離れた位置に居た男が座って。
背が高くておしゃれツーブロック、服のセンスも顔もいいなんて
今はあまり目に入れたくないイケメンは
聞くところによると高岡さんの弟らしかった。
随分落ち着いているし僕とそう変わらない年齢かもしれない
「やっぱりいいですね、このお店。
持ち帰りもしたいからショーケース見させてもらってきますね」
「はい、是非。
いつもありがとうございます~」
ケーキを食べてコーヒーを飲んだ高岡さんは上機嫌でショーケースを見に行った。
有名パティシエである店長が作ったケーキはこの辺でかなり人気で
持ち帰りだけの人も多いからカフェスペースと別にショーケース横にレジがある。
高岡さんを目で追うと、ちょうどレジに立っていた高槻さんが目に入って
「今日は食べてく?買ってく?」
「……じゃあ買ってく、あんた帰ってきてから一緒に食べる」
「はは、可愛いな~鷹也」
耳聡い方ではないけれど、お客様が多い時間帯の少しのざわめきに紛れて、
そんな会話が耳に届いてしまった。
見れば、レジ前に居るのは金髪の少年。
細身で、僕の位置から横顔しか見れないけれどその横顔もわりと綺麗。
何より高槻さんの顔が物凄くいとおしげで、
フラれる前に店長に聞いた高槻さんの恋人があれだと、嫌でもわかってしまった。
「ねえ」
「え……あっ、はい、何か追加されます~?」
ざわめきに紛れてレジカウンター越しに頭を撫でる高槻さんを見て
なんだか少しの苦しさをおぼえた時、
不意に近くから声がかかって。
いけない接客中だった、と視線を前に向ければ
カウンターに頬杖をついて首を傾げて、
何やら探るような目で僕を見ている高岡さんの弟くん。
何だ、と思って笑いかければ、面白そうに上がった弟くんの口角。
「お兄さん、何かありました?」
「……え~、何がですか~?」
食えないタイプだ、そう思って、ごまかすように笑った。
多分、知られたら一番面倒そうなやつ。
僕が笑えば、諦めたのかそれほど興味もないのか、
意味ありげな目線を寄越したあと頬杖を崩す。
「まあいいや、長くなりそうなんでコーヒーおかわりもらえます?」
「かしこまりました~」
ショーケース前で真剣に悩んでいる高岡さんを見て
弟くんは少し笑ってそう言った。
そうして二杯目のコーヒーを飲み終わる頃、
やっと買い物を終えたらしい高岡さんが声をかけて
二人は帰っていった。
他愛のない話題を二、三言振られ、少しばかり打ち解けたような弟くんは
ひらひらと僕に手を振ってきて。
なんだか探られていたような面白がられていたような変な気持ちになりながら
僕はカウンターを片付け始めた。
けれど、そこで見つけたのは
「…………高校生、かよ……」
弟くんの写真が入った、近くの高校の学生証。
あの外見であの落ち着きようで高校生かよ、と
僕は堪えきれず呟いて。
けれどお客様の忘れ物は届けなくては、
そう思って少しばかり重い気分になって
オフである翌日の予定にそれを組み込んだ。
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