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マイクロチップ(士郎side)
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龍之介達が嵐のように学園を去ってから、早3日
一日の授業が終わると誰からともなく執務室に集まり、今後の学園運営について話し合うのが日課になった。
「龍ちゃん達がいないなんて、何だか信じらんないね……」
克己がデスクに頬杖をつきながら、遠い目をした。
「あの人ら、実はちょくちょく消えてたからなぁ。今も、ただちょっと留守にしてるくらいにしか思えねーし」
感慨深げに、ジェイがつぶやく。
「……ああ。一週間や二週間はざらだった」
今にも、何食わぬ顔でひょっこり現れそうで、つい誰もいない背後を確かめる癖がついた。
そういえば……と、デスクの引き出しを探れば、去り際にマコトが残していったマイクロチップが指先に触れた。
中身は何だとの問いに、とにかく見ればわかると、したり顔で押しつけられた。
バタバタしていて、つい放置していたが、重要な内容の可能性もない訳ではない。
とにかく一度確認しておこうと、専用の再生機器だと渡されたソケットを、個人に割り当てられたパソコンに接続する。
再生して、映像がスクリーンに映った瞬間、全体重を乗せて、バタンとノートパソコンの蓋を閉じた。
「……っっっ!!」
声にならない悲鳴を、ギリギリのところで飲み込んだ。
頭の中は大混乱、顔色は真っ赤と真っ青を行ったり来たりしているのが自分でもわかった。
不審に思った役員達が、我先にとのぞきこんでくるのを必死にガードしたが、しょせんは多勢に無勢。
中でも、PC関連にめっぽう強い翡翠が、素早くマイクロチップを奪い取り、スクリーンの中身をプロジェクターに投影したものだから、たまらない。
『あ…っ…ん…、も…や…っ』
耳を塞ぎたくなるような嬌声は、他ならない自分のものだ。
『……もっと欲しい、の間違いだろ……?』
夜の闇を溶かす、毒のように甘い声が、一瞬にして部屋の空気を支配した。
ぴったりと重なり合った二つの身体が、焦ったいほどゆっくりと揺れていた。
数限りなく昇り詰めた果ての、限界を試すかのような情交に、瞳も声も、艶めく肌も。
穿たれる奥同様に甘くとろけ、普段のポーカーフェイスなど見る影もない。
途切れる意識の狭間で嬲られ、囚われ、濃密な甘い闇に堕とされていく。
『……ナカが震えっぱなしだ……。良過ぎて、もうナンも、考えらンねェだろ……?』
『…っ…あ…っ、リュ…っ」
『……今夜のことは忘れても、この熱とカタチだけは、しっかり奥に刻ンどけ……』
次に抱いた時、身体が思い出すように。
『……オマエはオレのモンだって、繰り返し何度でも教え込んでやる……』
魅惑的な悪魔が永遠を記すように、ささやいた。
もはや記憶も理性も弾け飛び、甘く霞んだ夜の闇に閉ざされるべき記憶をこじ開けられて、限界を遥かに振り切るほどの愛しさと羞恥と喪失感に、言葉もなく呆然と立ち尽くす他なかった。
片や、いち早く立ち直った克己が、
「……これはちょっと、目の毒だよね」
苦笑しながら映像を終わらせた。
かといって、一度生まれてしまった妙な空気感は、容易に消えてくれるものでもなく。
皆一様にモゾモゾと、デスクの下で脚を組かえては、薄っすらと浮かぶ額の汗を拭っていた。
「……すんません、ぶっちゃけ、勃ったっす!」
ついに、居たたまれない空気感に耐えかねたのだろう。
ジェイが股間の辺りを押さえながら立ち上がり、自己申告した。
男同士なだけに、みな視線を見交わしながら、苦笑の嵐だ。
「とても話し合いができる状態じゃないし、今日はこのまま解散しよっか」
「賛成!」
克己の号令のもと、いそいそと二組のカップルが席を立つ。
「シロちゃん、無理やり見ちゃって……ごめんね?」
克己が去り際に耳元でささやいてきた。
「 でも正直、二人ともすっごく色っぽくて、ビックリしちゃった」
「……言うな」
「お似合いだと思ったよ? お互いしか見えなくて、世界がそこで完結してる感じ。……正直ちょっと感動しちゃった」
「……頼むから、黙って消えてくれ」
克己が再度苦笑しながら、達也と消えた。
「シロさん……ごめんなさい」
謝る翡翠に、肘をつき握った拳に額を押し当てながら、首を振った。
「いや……。おかしなものを見せて、悪かった」
「……気休めにもならないだろうけど、これを保存しておきたいと思ったキングの気持ち、わかる気がした。これを支えに、離れてる時間も耐えられる……歩いていける。自分にはこんなにも愛する相手がいる……そう思わせてくれる映像だったと思う」
翡翠の手を引いているジェイが目を見開いた。
「えっ!? じゃあ、オレも撮る!?」
「……バカは黙ってて」
「ひでぇ!」
「とにかく、僕らは誰もシロさんを軽蔑してないし、そういう邪な目で見る類の映像じゃない。気にしないでって言っても無理だろうけど……気にしすぎないでくれたらと思う」
ジェイの手を引いて翡翠が部屋から出ていくと、室内は深い海の底のようにシン……と静まり返った。
どれくらいの間、呆然と立ち尽くしていただろう?
ようやくわずかながらも立ち直り、諸悪の根源のマイクロチップを破棄しようとして、ためらった。
思えば、龍之介の写真一枚、持たない自分に気づく。
もはや一生分に匹敵するほどの色濃い時間を過ごした気はするが、恋人として触れ合った時間は、実は信じられないほどわずかだった。
訳ありの子息ばかりが暮らす桜華では写真撮影自体が禁忌とされ、学園側が支給しているスマートフォンは写真アプリをダウンロードできない仕様になっていた。
隠し撮りが100%絶対ないとは言えないが、各生徒のコンピューターはホストコンピューターのAIによって管理され、隠し撮りが見つかれば即刻退学と、重いペナルティーもつく。
人気者の生徒会役員でさえ、公に出回る写真は一枚もないのが現状だった。
途端に、龍之介の声と映像がひどく貴重なものに思えて、途方に暮れたように手の中のマイクロチップを見つめた。
羞恥のあまり、二度とは見られないとしても、捨てるのはあまりに忍びない。
正直自分さえ映っていなければ、この映像の価値は計り知れなかった。
たまにはこっそり、見たいとさえ思う。
悩んだ挙句、鍵のかかる引き出しにしまい込み、チェーンに鍵を通して、首にぶら下げた。
それから一向におさまりのつかない熱を処理するために、恥を忍んでかつては龍之介が使っていた、今は自室となった思い出深い部屋にこもることにした。
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