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卒業式【美馬豊×鳥飼拓海】
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「高い!!すっごーい!」
「こら。危ないから暴れちゃ駄目だって」
きゃっきゃと嬉しそうな声で笑う少女。ある方向を指差し、大きな声を上げた。
「たぁくん!!たぁくんだ!」
目当ての人物を見つけたのか、今度は真剣にカメラを構えた。
女の子を落とすまいと必死な俺は、もう前を向いている余裕なんて無くて、拓海くんが通ったかどうかもわからない。
一体何の為にここまで来たのか…そうは思うけれど、この子の楽しげな声を聞くと、良かったと思えた。
大きくて邪魔だと言われる自分が、誰かの役に立てたことが嬉しかった。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
肩から降りた少女は丁寧に頭を下げる。俺の手のひらで隠してしまえそうなほどのそれを、そっと撫でると目を細めて笑った。
「お兄ちゃんのお名前は?あたしは七海!!」
「お兄ちゃんは美馬豊」
キョトンと首を傾げた少女が「豊くん!」と俺を呼んだ。
「豊くん、優しくておっきいから七海の彼氏2号にしてあげるね」
「2号?七海ちゃんにはもう彼氏がいるのか…今時の子は恐ろしい」
「七海の彼氏ね、歩くんっていうんだよー。かっこよくて、優しくて、本当にかっこいいの!!」
そういう七海ちゃんの表情は、幼いながらに恋する乙女だった。その歩くんとやらを思い浮かべているのか、ほんのり顔を赤らめて笑う。
「七海ちゃんはその歩くんが大好きなんだな」
「うん!!どうしてわかるの?」
「とっても優しい顔をしているから」
両頬を押さえた七海ちゃんが、照れたのかその場でくるくる回り始めた。何周かして止まり、ふふっと笑う。
「じゃあ豊くんもしてるんだね!だってすっごく優しいもん」
「俺?俺は……そうだな。してる、かな」
「じゃあ豊くんは七海の彼氏じゃなくて友達ね!恋バナしようね!!」
「恋バナ…楽しみにしてるよ」
七海ちゃんと指切りをし、繋がっていたそれを離す。向こうに兄を見つけた七海ちゃんが、手を振り走り去ってしまった。
周りにはちらほらと制服姿の子たちがいるけれど、その中に拓海くんはいない。
もう校舎に戻ってしまったのか、それとも友人の多い拓海くんのことだから誰かに捕まっているのか…。
話をするのはまた今度にしようと、俺は帰ることにした。校門へと向かって1歩進む。
また、後回しにしてしまう自分に言い訳をして2歩目を踏み出す。
「ちょっと待った!!待った待った待ったー!!!!!」
後ろから大きな声が聞こえても、きっとそれは俺宛じゃない。自分には関係ないのだとまた足を動かした。
「だから待ってってば!!もう…っ、待てって言ってるだろ!」
これだけ引き留められているんだから、待ってやればいいのに。えらく頑固なやつだと思った。
まるで今の俺のようだ。
「豊さん!!待ってってば!!!!」
背後から腕を掴む男の子。見下ろしてまず見えたのは明るい髪。次に見えた顔は幼く、けれど周りを笑顔にさせるあたたかな瞳をした、俺の好きなそれ。
「なんで何も言わないで帰ろうとするかなぁ…声かけてくれんの向こうで待ってたのに」
そう言った拓海くんがジト目で頬を膨らませる。
………どうやら頑固に帰ろうとしていたのは、俺のよう、じゃなくて俺だったらしい。
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