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「倦怠期なぁ……それもう確定なん?」
1限目をサボり、カフェに俺を連れて来た幸は、手元にあるカップの中身をマドラーでかき回しながら聞いてくる。
今日は半袖でも十分過ぎるぐらい暖かいのに、幸が頼んだのはホットコーヒー、対する俺はオレンジジュース……こういうところがイケメンとの違いなのかもしれない、そう思った。
「あいつ、俺がサークル入るって言っても何も聞いてこなかった」
「サークル?ウサマル、サークル入んの?」
「入るわけねぇだろ!試すために言った嘘だよ!!」
俺が怒ると幸は軽く謝り、コーヒーと一緒に買っていたクッキーを分けてくれた。理不尽に怒鳴られても笑ってやりすごせるところは、歩とは大違いだ。
熱い熱いコーヒーを優雅に一口飲み、幸はヘラっと笑って言う。
「けどな、相手は大人なわけやん。たかがサークルで何か言ってくる方がどうかと思うけど」
「いや、今までのリカちゃんなら絶対に言ってくる。駄目まではなくても、どんなサークルかは聞いてくるはずなんだ」
リカちゃんは基本的には俺の意見を尊重してくれるけど、それは報告した時だけだ。自分は勝手に何でも決めちゃうくせに俺にはそれを許さない。
リカちゃんは、そういうところが俺様だったりする。
「なんとかしてリカちゃんを試さないと……このままじゃ離婚になる」
思わず出た俺の弱音に、幸が飲んでいたコーヒーを噴き出した。
「んだよ、汚いな」
「ちょい待って。別れるじゃなくて離婚なん?ウサマル、そんな乙女みたいなこと言わんといて」
「はあ?プロポーズされて受けたんだから離婚だろ」
「あー……うん、それで倦怠期とか言ってる意味が俺にはわかれへんけど」
ぶつぶつ言っている幸には悪いけど、細かいことを説明している時間は俺にはない。こうしている間にもリカちゃんの気持ちは冷めていき、もっと遠くなるかもしれないのに。
別にリカちゃんが俺から完全に離れるとは思っていない。ただ、一時的にでも気持ちが冷めるのが嫌なだけだ。
リカちゃんは、いつもバカみたいに「慧君慧君」って言って、俺にだけ甘ったるく笑ってなきゃダメ。
それが一瞬だってなくなるのが許せない。
「試すって言ってもなあ。それって倦怠期と関係あんの?それこそ、ほんまに倦怠期やったら逆に展開悪くするだけちゃう?」
それでも幸はちゃんと相談に乗ってくれるらしく、なんだかんだ言いつつアドバイスをくれる。だから俺だって、幸には少しだけ素直になれる。
「それは…わかんない、けど。でも何もしないのは無理だから」
恋愛初心者の俺にとって、駆け引きとかは二の次だ。とにかく今できることをするだけ。
けれど、できることが何かがわからなくて拓海や幸に頼ったのに…それなのに、拓海は歩にビビッちゃうし幸は危機感がないし。
もう味方はいないのかもしれない。リカちゃんが俺に冷めたかもしれない今、俺は1人になってしまう。
沈んでいく気持ち、悲しくてズキズキする胸。
咥えていたストローを噛みしめる俺の頭を、幸がゆっくりと撫でた。
「ウサマルは、ほんまに彼女のこと大好きなんやなあ……見てるこっちが照れる」
「悔しいけど好き。すっげぇ好きなのに、俺だけなんてやだ」
テーブルに突っ伏して答えると、撫でていた幸の手が止まった。
「………よし、わかった。俺に任せとき」
ぽんっと軽快な音と共に俺を叩いた幸がスマホを取り出す。それを操作しながら、俺に週末の予定を聞いてきた。
リカちゃんは最近忙しいらしく、今週は確か職員会議もある。土曜の午前は生徒会の仕事だって言ってたし、それが終わった後は鹿賀ってやつに会いに行くらしい。
今までも何回か鹿賀と会ったみたいだけど、その度にやたらと疲れて帰って来たリカちゃんを思い出す。
疲れてソファに沈みながら、俺を触るリカちゃんの手。俺を呼んで癒してって言う唇。
少し…いや、かなり罪悪感があるけど。でも、それに必死で蓋をして俺は幸に「予定はない」と答えた。すると幸はにっこりと笑う。
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