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「昔の慧君なら、鹿賀のことを可哀想だとは思わなかっただろうね。思ったとしても、ここまで庇ってやることはなかった。違う?」
「違わない、と思う」
「ということは、それだけ今は幸せだってこと。心に余裕があるから誰かに優しくできる、それをできた慧君は、昔の慧君よりもずっと成長してる」
本当にそうなんだろうか。リカちゃんの言う通り、俺は自分が幸せだから鹿賀に優しくしてやりたいと思ったんだろうか。
その答えは目に見えなくて、きっと誰も形としては証明してくれない。でも、なんとなくその通りだと思えた。
だって、俺はリカちゃんが俺に怒ったら鹿賀のことなんて忘れてしまう。鹿賀がどう思ったかより、どうして俺がリカちゃんと言い合わなきゃ駄目だったのか考えてしまう。
余裕がなくなった時、俺の頭の中にあるのは自分とリカちゃんのことだけだ。
「リカちゃんがそう言うなら……そうなのかもしれない」
確かに今の俺は昔よりもずっと幸せだ。それだけは間違いない。
歩や拓海がいて、幸がいて、そしてリカちゃんがいて……でもそのことに慣れ過ぎて、それが当然だと思ってしまった。
存在して当然で、身近すぎてリカちゃんを真っ先に傷つける。
リカちゃんは俺の隣にいるのが絶対。リカちゃんは俺の味方をするのが絶対。
リカちゃんは俺にとっての『絶対』だ。
「なんだか難しい。俺、また同じ失敗しそうなんだけど」
ため息まじりに呟くと、リカちゃんの手が後頭部に回る。強めの力で引き寄せられ、今度は唇じゃなく額がぶつかった。コツン、と音のない音を立てて額同士が合わさる。
近すぎて上手く見えないその表情。近ければ近いほど見えづらくなる。わからなくなる。
近ければ近いほど見失いがちになって、近ければ近いほど疑ってしまう。疑わなきゃ、期待が裏切られた時に立ち直れない。
でも。
「別に失敗してもいいんじゃない?俺は慧君の傍から離れないんだし。いっぱい失敗して、何度も間違って何度でも知っていけばいい。もしその過程で慧君が俺を傷つけたと思ったなら、また言ってくれればいい」
リカちゃんの影がどんどん大きくなる。ぐっと顎を上げられたかと思ったら、俺を見下ろす黒い瞳と目が合った。下から見上げるそれは少し冷めたように見えて、きっと俺は不安そうな顔をしたんだろう。
その目が柔らかな色に変わる。
ふわりと緩んで、とろりと蕩けて、いつものリカちゃんに戻って囁く。
「好きだよ。人からどう言われようとも、慧自身が駄目だと思うところも。その全てを」
言葉を途絶えさせたリカちゃんが被さってくる。軽く触れるだけじゃなく、しっかりと合わさった唇は言葉を続かせない。それは簡単には言わない、リカちゃんらしい伝え方だ。
リカちゃんは『愛してる』とは滅多に言わない。それはリカちゃんにとって特別で、特別すぎて重たすぎるから。けれど、それを崩す方法が俺には残っている。
「……っ、リカちゃん、続き──続きを、教えて」
リカちゃんは俺の願いを叶える。たとえ自分の意志を覆しても、俺が求めれば応じてくれる。
「やっばぁ……わかってて聞くなんて、慧君ってば意地が悪いね」
「うるさい。いいから早く、っふ……早く、んんっ……言え」
唇が重なって離れて、舌が入ってきて絡んでから遠ざかって行く。もう1度と言おうとするより早く戻ってきたそれは、重なる瞬間に欲しかったものを落とす。
「愛してるよ、慧」
それに返事をするように、俺はリカちゃんを強く抱き寄せた。
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