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11.理解することを諦めた瞬間
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「それさ、煙草の吸い過ぎと俺は全く関係ないと思うんだけど。ただの言いがかりだろ」
「いやいや。大いに関係あるから」
「どこにだよ。人の所為にすんじゃねぇ」
お前の喫煙と俺の存在のどこに関係性があるのか。欠片も思いつかなくて、きっと適当なことを言ってるんだと思った。
思考回路が馬鹿げているリカちゃんだから、そうに違いないと言い捨ててやった……んだけど。
「ほら、考えてもみて。慧君を待ってる間、どうしようもなく寂しいから一服するでしょ。吸い終わってまだ帰って来なかったら、余計に寂しくなってまた吸う。想い募った気持ちの分だけ、俺の身体には有害物質が蓄積されていくってシステムだ」
駄目だ。やっぱり俺にリカちゃんの考え方は理解できない。理解しようとする方が間違っている。
ここまでくればもう、一種の脅しなんじゃないかとさえ思う。それでも最終的には、丸め込まれてしまうから不思議なんだ。
きっとその理由は、あまりにもリカちゃんが当然のように言うからだろうけれど。人間、嘘でも自信満々に言えば本当のことになる可能性だってある……のだろうか。
──いやいや。待て俺。早まるな俺。そんなものがあって、たまるかって話だ。
よく考えればリカちゃんの喫煙は俺と出会う前からのことで、俺は全く関係ない。つい納得しそうになった自分に呆れ、そして納得するのも悪くないと考えてしまった自分が嫌になる。
そんな2つの感情を俺は上手く処理できない。
「リカちゃん…………お前って本当に残念な男だよな」
「慧君。そんな深刻そうな顔で言われると、俺だってそれなりに傷つくよ」
「ここまで来れば本気で心配するから。そりゃ深刻な顔にもなるって」
リカちゃんが俺に向けてくるのは、依存だって言われればそれまでだ。おそらく他人から見たら馬鹿馬鹿しくて、落ち着きのない2人なのだろうけれど。
……だ、けれど。
好きな人の一部に自分が関われることは、正直に言って嬉しい。何もやる気の起きない毎日の中で見つけた、小さな幸せとも言える。
もちろん、それを口に出して本人に言うことはない。そんな恥ずかしさで死ぬようなことを言うくらいなら、俺は心で思うこととは真逆を言ってやるだけだ。
「俺、いつかリカちゃんに呪い殺されるのかもな。それとも、寒い台詞の連続で凍え死ぬとか?」
「慧君が死んだら困るから、死なない程度に告げるようにするよ。溺れ死ぬ一歩手前で止めて、苦しさに悶える顔を舐め回してあげたい」
「…………マジで気持ち悪い。ヤバい。早く風呂入らなきゃ、寒くて死ぬ」
そそくさと逃げ出したリビングのソファの上で、リカちゃんがどんな顔をしていたかは知らないけれど。
楽しそうな笑い声が聞こえたから、俺の無駄な抵抗と嘘ばっかりの強がりは、やっぱり全てお見通しなのだろう。
悔しいけれど、これは出会った時から変わらない。
変えたいと思うことが変えられなくて、変わらないでと願うことが変わっていく。
それが俺が学生じゃなくなって知った『大人になるということ』だ。
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