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83.オカマVSヒトヅマ
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3人で遅めのランチをして、そこで桃ちゃんと美馬さんが言い合って。職場からの急な呼び出しで帰らなきゃダメになった美馬さんと別れた俺たちは、マンションまでの道を歩いて戻った。
そして、1歩進むごとに俺の体調はどんどん悪化していった。
「ウサギちゃん大丈夫?やっぱりタクシーに乗るべきだったわね」
「大丈夫……駅からマンションまでの距離なら、タクシーを捕まえる方が大変だし」
「でもさっきから顔色真っ青よ。今日ってリカは早く帰れるのかしら?」
「どう、だろう。今朝も俺が起きる前に行っちゃったし……具合が悪いこと言ってないし」
心配してくれる桃ちゃんの気配を感じつつ、進まない足を見つめる。ちょっとでも気を抜けば、しゃがみこんでしまいそうになる。
「あたしリカに電話してみるわ!前のスマホは壊れたけど、確か番号は変わってなかったわよね?!」
「いっ、いいって!この時間だと授業中だろうし、どうせ出れないから」
「でも学校からここまで車で5分ぐらいでしょう?少し抜けるぐらいなら……って、ごめんなさいね。まさか豊だけじゃなく、あたしまで仕事が入ると思わなくて」
美馬さんと別れてすぐ、桃ちゃんも呼び出しがあった。忙しい2人に頼るワケにいかず、俺は大丈夫だって言い張ったけれど。
正直かなりキツい。頭はガンガン鳴るし、胃はムカムカするし、全身が自分のものじゃないみたいに重たい。
「大丈夫。家に戻ったら、リカちゃんが帰ってくるまで寝ることにする」
だから気にしないでと言えば、桃ちゃんは眉を顰めた。
「ウサギちゃんは、もっとあいつに甘えればいいのに。とにかくリカには知らせておいたから」
「これ以上リカちゃんに甘えるのは……なんか、ダメだと思うから」
「……あいつ。いくら本人の為とはいえ、突き放すにも限度があるでしょ」
桃ちゃんがボソボソと言ったけど上手く聞き取れなくて。何のことか聞き返した言葉は、桃ちゃんに届く前に消される。
俺の大嫌いなあの人の声によって。
「慧くん。それに……あっ、大熊さんまで!」
どこかへ出かける予定だったのか、今日も綺麗な格好をして。どうしてこんなにも遭遇するんだろうって考えて浮かぶのは、平日の昼間に出歩いている俺が悪いのか……なんてこと。
マトモに動かない頭で考えることは、どうでもいい事ばかりだ。
桃ちゃんのことを大熊さんって呼ぶのはこの人だけだ。なんて、これもどうでもいいか。
「ああ……蛇光さんか。どうも」
ぼうっとする俺の代わりに答えてくれた桃ちゃんに、違和感。その正体は2人の会話から形が見えてきた。
「大熊さんがこんな時間にいるなんて珍しいですね。お仕事はお休みですか?」
「ははっ……そんな感じですよ」
「あたしも今から出かけるんです。そろそろネイルを塗り替えようかと思って。そうだ!大熊さんは、どんな色がお好きですか?」
「俺の好きな色よりも、ご自分の好きなデザインにすべきですよ。蛇光さんなら何でも似合うでしょうし」
『俺』って言った。いつもは『あたし』と言う桃ちゃんが自分のことを『俺』って。
桃ちゃんはオネェ言葉も封印して、男としてそこに立っていた。男の顔で男の声で、蛇光さんと接する。
「うーん。あ、それなら獅子原さんの好きな色って何色か知ってますか?確か2人ってお友達でしたよね?」
「獅子原のですか?さあ……どうだろうな。友達と呼べるほど親しくないので」
リカちゃんのことを『獅子原』って呼んだ桃ちゃんが嘘をつく。あえて呼び方を変えて、普段はつかない嘘をついてまでする桃ちゃんが俺を見た。
「ごめん。このまま俺が部屋まで送る」
蛇光さんから俺を隠すように立った桃ちゃんが、俺と視線を合わせてくれた。こっそり微笑むその顔はいつも通りの桃ちゃんで、俺はとりあえず頷く。
「蛇光さん。慧君の体調が悪いので、無駄話はまた今度ということで」
初めて慧君と呼ばれたかと思いきや、肩を抱かれて歩かされる。その力の強さに驚く俺に桃ちゃんは小さく首を振る。
──無視して。
桃ちゃんの唇の動きはそれだった。桃ちゃんはこの人から俺を庇おうとしているんだ。どうしてかはわからないけれど。
そうして過ぎ去ろうとする俺たちを……じゃなく、俺を引き止めるのはこの人だけだ。
「慧くん、体調悪いの?大丈夫??」
気遣うはずの言葉には、感情なんてこもっていない。
隣の桃ちゃんが呟いた「クソ女」に、俺は思わず笑ってしまった。
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