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102.迷宮Date
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ネクタイを見たいと言ったリカちゃんに連れられ、俺たちは車で1時間ほど離れたアウトレットモールに来た。きっとリカちゃんなら百貨店とか、もっと高価な店に行けたはずだけれど、今日の目的はデートだからここを選んだんだろう。
言葉なく俺に合わせたリカちゃんに、喜びよりも切なさが勝る。けれどそれを口にはできず、俺はグッと強く心に蓋をした。
適当に目についた店に入って、店内をぐるりと回って。お互いにこんな服が似合うとか、こういうの着てみたらどうかとか言い合って。結局、何店舗か回ったのにまだ何も買っていない。
自分の金では、だ。
「お前……自分がネクタイ見たいって言ったくせに、なんで俺の服ばっかり買うんだよ?!リカちゃんの買うために来たんだろ?!」
Tシャツが2枚とボトムが1つ、それから部屋着用のジャージのセットに、下着や靴下やら。全てリカちゃんが支払った俺の荷物が、全てリカちゃんの手元にある。
もう一度確認するけれど、今日は俺の買い物に来たんじゃない。
「何を着ても着こなせる慧君が悪いんじゃないかな」
にっこり笑って意味不明なことを言うリカちゃんを横目で睨む。でも何も効果はなくて、リカちゃんの上機嫌は変わらなかった。
「さあ次は何を見に行く?時計……いや、靴でもいいな」
「お前のネクタイは?」
「慧君はネクタイが欲しいのか?そうだな、慧君なら……水色なんてどう?」
「だからリカちゃんのやつ!!リカちゃんのネクタイを見に来たんだろ?!」
「はいはい。それもついでに見るから、とりあえず移動しようか」
先を歩こうとしたリカちゃんの足が止まる。その理由を、俺は瞬時に悟った。リカちゃんは何でもできるけど極度の方向音痴だった。
「もしかして迷子か?」
とは言ってみても、周りにはたくさんの店があるのだけれど。でももしリカちゃんに目的のブランドがあるなら、迷子になってる可能性はある。
やっと俺の出番がきた。そう思った俺はリカちゃんの隣に並び、背の高いこいつを見上げる。
目と目が合って、一瞬黙って。頷くか否定するかのどちらかだと思ったけど、リカちゃんの口は予想外の言葉を放った。
「慧君。香水は要らない?」
「──え」
「最近つけてないから。必要なら、ここでも買えるけど」
ドクン、ドクンと胸が激しく打つ。なんて答えればいいか、なんて言い訳すればいいか、わからない。
でも黙っていられない。リカちゃんの目が俺を見て、リカちゃんが俺に訊ねたんだから。
「あ……こう、すいは」
瞬間に喉が乾いて、声が掠む。何も言ってないのに唇が小刻みに震える。
でも、何かを言わなきゃいけなくて。
「塾で、ダメだって言われて……ちょうど使い切ったから…………それに使う時はリカちゃんのがあるし」
自分でも良い理由を作れたと思う。塾では使えないのは本当のことだし、リカちゃんの物があるのも本当のことだ。
使い切ったの一言だけが嘘。その嘘を隠すよう、俺はリカちゃんから顔を背けた。
「そう。慧君がそれでいいなら分かった」
返事をしたリカちゃんは笑っている。なんとか上手くごまかせたことに、安心した。怖いぐらいにドキドキしていた胸がやっと落ち着いた。
けれど身体の奥の奥が、ズキズキと痛む。
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