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昔から思っていることを言葉にするのが苦手だった。だから黙っていることも多いし、仮に何か言おうものなら怖がられるのが目に見えてる。
そんな俺の代わりにいつも桃が上手く立ち回ってくれる。
寡黙と言えば聞こえはいいが、ただ輪に入っていけないだけだ。
周囲よりも発育がよく、顔だって老けている。そんな俺に近づいてくるヤツはいない。それは中学でより酷くなり高校に入ってからは絶望的だった。
どうせこの先も誤解され怖がられる。俺みたいに何を考えてるかわからないヤツは大抵そういうものだ。
これで小柄で気が弱そうなら苛められていただろう…それよりは敬遠される方がまだマシだと思えた。
そんな俺に転機が訪れたのは、あの2人との出会い。
学校内で1番目立っているあの2人がなぜ俺なんかの傍にいてくれるのか。
なぜ俺を友達というカテゴリーに入れてくれるのか。
明るくて意志の強い桃。聡くて頭の回転が速い星一。黙っていても人を寄せ付ける理佳。
俺に無いものばかりを持つ3人が羨ましく、誇らしく、そして心のどこかで妬む自分がいた。けれどそれも時を重ねる毎に風化し、何も感じなくなった。
あの3人と俺とは人種が違うのだと思えばそれまでのこと。
自分に蓋をして過ごしていくうちに星一が事故で亡くなり、理佳が壊れ、そして桃も癒えない傷を負った。
何も持っていない俺は何も失わない。
だからあいつらの痛みも苦しみもわかってやれない。
何を言っていいのか、何をしてやれるのか。
それすらわからない俺に友達を名乗る資格なんてない。
だってあいつらは『特別』で俺は『平凡』だから。
そうやって俺はずっと3人に劣等感を抱いてきた。だから『彼』を見て自分と同じだと思った。
特別な兄を持つ弟はやっぱり特別で。
ウサギ君と歩君に挟まれる拓海君は昔の俺と似ている。
これといって自慢できる特技もなく、有能でもなければ華やかさがあるわけでもない。
そんな拓海君が、俺と同じ『平凡』な人種の彼が父親になるなんて予想もしていなくて、ひどく動揺した。
「うませんせーっ!うま先生!!」
声と共に腰に衝撃が走る。後ろから駆け寄って来た園児が俺に抱き付いたからだ。
「うま先生っ!今日はウサギさんと犬さん折って!!」
手に持った鮮やかな色紙を振りながら俺に笑いかける子供。何の迷いも穢れも知らない存在。
それを見て俺の中のモヤモヤが納まり、落ち着きを取り戻す。
「あぁ。じゃあ教室でみんなと一緒にな」
小さな手が伸ばされ、俺はそれを握り返す。
子供は好きだ。最初は警戒していても一度心を開けば懐いてくれる。俺自身を見てくれる。
たとえ俺が『平凡』であろうと、なんの価値もないただ図体の大きいだけの男であろうと損得無しで見てくれる。
そんな理由で保父を続けている俺は卑怯な男だ。
それが自分をより嫌いにさせる。
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