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最後に見た背中を俺は今でも覚えてる。
あの人がどんな風に笑って、俺に何を言って、どうやって俺に触ったか。
「早く帰ってきてね」
そう言った俺にあの人は「慧がいい子にしてたらね」って笑って答えた。
俺はおとなしく待って、待って、待ち続けて。夜になってお腹が鳴っても待って待って。
気付けば寝てた俺を起こしてくれたのは……そう言えば父さんだった。
「お母さんは?」
父さんは俺を抱きしめて何かを言ったけど俺はまた「お母さんは?」とくり返した。
次の日になっても帰ってこないあの人を求め続けて、そしてわかった。
人は簡単に嘘をつく。目に見えないものを信じても無駄なんだって。どんなに大切だって言われてもそれが本当だとは限らない。
「興味ない」「別にどうでもいい」「俺に関係ない」
そうやって言っていれば期待しなくていい。もう傷つくことだってない。
中学で拓海と歩と出会って、こんな俺でも一緒にいてくれる2人を友達だと思った。それでも本当に思ってることは言えない自分を感じてた。
自分の弱いところは見せたくなくて、でも2人に秘密を作られるのは嫌で。
俺はワガママだ。ワガママで勝手で1人は嫌なのにどうしても踏み出せない。
『俺はお前の為に生きてる』
リカちゃんは出会った時から強引だった。嫌だって言う俺の中に遠慮なく入って来て好き勝手するくせに俺のことを否定はしない。
ワガママ言っても離れていかない。勝手なことしても離れていかない。
ちゃんと怒ってくれる。認めてくれる。許してくれる。
信じるなんて言っても何をどうしたらいいかわからない。それでも俺は見つけなきゃいけない。
俺の為に生きてくれるリカちゃんに言うんだ。
胸を張って笑って、俺の大好きなあの瞳を真っすぐ見て伝えるんだ。
「俺もリカちゃんの為に生きたい」
*
「慧」
校門のところで待つ2人。帰ったはずの2人がそこにはいた。金髪の偉そうな歩も、いつもニコニコしてる拓海も同じような顔をして、俺を黙って見つめる。
泣いたこと…バレるよな。どうしたんだって、大丈夫かって心配させてるよな。
だって俺が逆の立場でも思うもん。2人が辛くて悲しかったら嫌だもん。
「リカちゃんとさよならしてきた」
ちゃんと頑張るから。何とかしてくれるのを待つんじゃなく、自分で考えて行動して絶対に見つけるから。
泣きながら笑う俺の頭を歩が黙って自分の肩に乗せる。慧って俺の名前を呼びながら拓海が腰に抱きついてくる。
こんなとこで目立つだろって、暑苦しいんだよって言おうとしたはずなのに、俺の口からは何も出なくて、ただ声を殺して泣いた。
もう逃げたりしない。
俺はリカちゃんと一緒にいたい。リカちゃんが俺の為にしてくれたことに応えたい。
『俺はお前を心から愛してる』
その言葉に浮かれるんじゃなく受け止めたい。
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