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ミカと家族写真
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僕はこの街で生まれて、この街で育った。
旅行や出張以外で、この街を離れたことはない。
父のルーツはイギリスのウェールズからの移民で、母のルーツはフィンランドだ。
それぞれ別のルーツを持つ2人がルーツとは違う国で出会い、結婚して僕が生まれた。
でも、彼らは僕が小さい頃に離婚して、母は生まれ育った街に帰ったらしい。
だから母の顔は覚えていない。
僕が知ってる母の姿は全てアルバムの中だ。
毎年撮られていた家族写真が今も残っている。
最初は父と母の2人。
そして、母に抱かれた僕が写真に収まるようになり、何枚か後からは父と僕だけの写真になる。
それも大学に入るまでで終わっていて、その後は無い。
父が友人たちと起した会社は軌道に乗り、少しずつ大きくなっていった。
いつかは父を手伝うことになるのかな、なんてぼんやり考えてはいたが現実味は無かった。
僕が30歳になる直前、父は事故でこの世を去った。
何事にも用意周到だった彼は、きちんと遺言書を残していた。
それで僕は父の会社を継ぐことにになったのだけど、最初は本当に大変だった。
いくら小さいとは言え会社は会社だ。
そのトップにいきなり座らせられたのだから、学ばなければならないことが多すぎる。
創業時からの父の友人達がいなかったら、今頃会社は無くなっていたかもしれない。
特にジルには本当に感謝している。
母のいなかった僕は、小さな頃から彼女にたくさん世話になった。
そして、会社を継いでからは、また返せないほどの恩を感じてる。
父の他界から数年して、社長を引き継いだ後の慌ただしさも少しは落ち着いてきた頃、僕はアルを見つけた。
アルを養子にして家族にしたものの、家族写真というものは撮らなかった。
決して家族として認めてなかったわけではない。
忘れていたのだ。
長年絶えていた習慣だったので、全く失念していた。
アルが大学を卒業する時、2人で写真館へ行った。
この街に代々続いている古い写真館だ。
父と母が写る写真を撮ったのはここで、子供だった僕も毎年ここへ来ていた。
そして、ずっと遠ざかっていた。
アルの卒業記念に2人で行ったのは本当に久しぶりで、店主は孫もいる年代になっていたが、温かい笑顔は相変わらずだった。
しかも、驚くことに僕を覚えてくれていた。
だから、それ以来、毎年行っている。
アルと2人の家族写真を毎年撮ってもらってる。
アルバムに写真が増えるのは嬉しいものだ。
「ミカ、何笑ってるの?」
「え? いや、アルとこうして毎年家族写真を撮れて、幸せだなって思ってさ」
「ぷっ…、ミカらしいや」
上品なアール・ヌーヴォー風の椅子に座り笑い合う僕達に、店主がレリーズ片手に声をかける。
「はーい、撮るからねぇ。こっち向いて笑ってぇ」
僕達はカメラのレンズに向かって微笑んだ。
来年も再来年も10年後も、こうしていられますようにと願いを込めて…。
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