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指輪の無いプロポーズ 3
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いつも通り2人で同じベッドに潜り込み、明かりを消す。
しかし、いつもと違ってミカに背を向けて寝るアルを、ミカは後ろからそっと抱き込んだ。
「おやすみ、アル」
「おやすみ…」
そう言いつつもアルは目を閉じていなかった。
そして、しばらく躊躇った後、口を開いた。
「ミカ、…俺、本当にわからないんだ」
「ん?」
「歳も誕生日も、全部…」
聞いてるよ、と伝えるようにミカはアルの体に回した腕に力を入れた。
「ミカに初めて会った時は、多分2年くらい経ってたと思う。俺…、どこかの歩道で歩いてたんだ。多分ひとりで。その前に何をしていたか覚えてない。気付いたらそこにいて歩いてた。どこから来て、どこへ歩いていくつもりだったのか、何もわからなくて怖くなった。ただ何でか、どうしても帰らなきゃって焦って、ただ走った。自分が今いる場所も、どうやったら帰れるのかもわからなくて、でも帰る場所はなぜだか知ってて、でも、その住所とか駅とかは全然わかんなくて、…とにかくパニクったよ」
記憶を手繰り寄せながらなのだろう、アルはぽつりぽつりと語り始めた。
「そこからしばらくの間のことは、記憶がごちゃごちゃで良く覚えてない。いつからなのか覚えてないけど、とにかく『帰る』って気持ちだけで毎日さ迷い歩いてた。どうやって覚えたのか、誰から教わったのか、全然記憶にないんだけど、なぜだか毎日泊まる場所を確保する方法を知ってた。そこから、多分1年以上経ってからミカに会ったから、あの最初の街で歩いてた時から2年は経ってたと思う。…本当に、それ以前の記憶がないんだ。アルって名前も、もしかしたら本当の名前じゃないかもしれない。全然わからないんだ…」
ゆっくりと話すアルの語った内容は、初めて聞くミカを驚かせて余りあるものだった。
まさか、記憶が無かったとは。
これはいわゆる記憶喪失というものなのだろうか?
全く予想していなかった。
何らかの事情を抱えて話せないのかと思っていた。
家出か、それとも何かの事件に巻き込まれたか、その辺りだろうと高を括っていた。
しかし、違った。
なるほど、前提が違えば会話が噛み合わないのも当然だ。
ミカの配慮ががアルに届かないのも、アルが疑われたと怒ったのも、無理からぬ話だったのだ。
「アル…、君を傷付けたね、ごめん」
アルはもぞもぞと体の向きを変え、ミカの胸に額を付けた。
「悲しかった」
「ごめん」
「ミカにだけは信じてほしかった」
「本当にごめんね」
「疑われるの辛い」
「ごめん。もうしないよ」
「だって、俺、…ミカ、好きだから…」
顔は見えなくても声だけでアルが照れているのが分かる。
多分、耳まで赤くしてるだろう。
ミカはキュッと抱きしめると耳元で囁いた。
「今日だけ?」
「?」
「僕のものになってって言ったら、今日だけって言ったから。だから、好きでいてくれるのは今日だけ?って聞いたの」
ベッドに入る前の会話を思い出して、アルはますます頬を熱くした。
「きょ、今日だけ」
「…さみしいな」
「明日は、明日だけ、ミカの…恋人」
「あさっては?」
「あさってだけ」
「次の日は?」
「次の日も」
会話を重ねるごとに段々とミカが笑い、アルがどんどん困っていく。
ついには声を立てて笑うミカにアルは「笑うな!」と拗ねたが、ミカは笑いを止められなくて、アルを強く抱きしめた。
「アル、10年後も20年後もだよ?」
「…わ、わかったよ」
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