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アルは人気者 2
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水曜日の朝、親とともに‘出勤’した子供達が元気に挨拶する声があちこちから聞こえ、アルは少し緊張した。
昨年までは広報担当と共にジルが社内案内に同行していたのだが、今年はアルが同行することになったのだ。
初めてのことで強張る顔にジルが「それじゃ子供達が怖がるわよ」とからかう。
「わかってますよ。スマイル、スマイル」
暗示をかけるように呟くと、アルは「行ってきます」と子供達の待つ会議室へ向かった。
午前の見学は何事もなく終わり、子供達が会議室に戻ってくるとテーブルにはすでに食事が並んでいた。
「わぁ!」
子供達の歓声が上がる。
喫茶店スタッフと協力してアルは紅茶を配り、今年の広報担当、マノンは子供達に手を洗わせて席に着かせた。
そこへミカが来て、子供達に挨拶した。
「こんにちは。この会社の代表をしています、ミカ・ウィリアムズです。今日、皆さんと会えるのをとても楽しみにしていました。お腹も空いていることでしょうから食べながらお話ししましょう。どうぞ召し上がってください」
ミカから食事のメニュー、使われている食材や食器の紹介がされ、子供達は「へぇ」と食べたり、皿の裏を見たりと興味津々な様子。
午前中はどうだったかとミカが話題を振れば、子供たちは我先にと感想を述べる。
アルやマノンも同席しているからミカから離れた席の子供達はアル達と話してみたり、子供同士でも会話するので、会議室は普段には無い賑やかさで満たされた。
午後、2日目午前は子供達が親と共に‘仕事’をする。
家にいる時の姿しか知らないパパやママンの働く姿はきっと新鮮だったに違いない。
2日目も前日同様にミカを交えての昼食後、そのまま質疑応答の時間を取って、子供達はそれぞれの親のところへ戻っていった。
終業時刻間近に秘書室のドアがノックされ、ジルはミカと話していたのでアルが対応した。
ドアを開けると女の子とマノンが立っていた。
「お疲れ様です、マノン」
「アル、お忙しいとこごめんなさい。少し時間ありますか?」
「はい…? どんなご用件でしょう?」
「娘のロラがあなたに渡したいものがあるって…」
マノンが苦笑しながらそう言うと、ロラはアルを見上げて緊張の面持ちで口を開いた。
「ロラです。昨日と今日はありがとうございました。あ、あの」
ロラは突然、顔を赤くすると、くるっと振り向き
「ママンは外で待ってて」
とマノンの体を押すとドアを閉めてしまった。
その様子に呆気にとられていたアルと、机越しに話していたジルとミカの視線は小さなロラに集中した。
3人に注目されてロラは顔を強張らせたが、アルが目線を合わせるようにしゃがむと、持っていた包みをずいっと押し付けるように差し出した。
「私が焼いたクッキーです。昨日、下のお店でママンと材料を買って帰って、お家でママンに教わりながら焼きました。食べてください…!」
「ありがとう、ロラ」
アルは受け取ったがロラはまだ何か言いたそうだ。
アルが不思議そうに見ているとロラは再度言った。
「た、食べてください」
「…え、今?」
なぜかロラは睨むように頷いた。
それでもアルが躊躇していると、アルの手にある包みを開けてクッキーを取り出し、彼の口に突っ込んだ。
アルは驚き、それを見ていたジルとミカはぷっと吹き出し、慌てて口を押さえた。
「味はどうですか?」
小さなロラに気圧されて、アルは「お、おいしいです」と答えた。
「もっと練習して、もっとおいしく作れるようになります。クッキーだけじゃなくてケーキもパイも、お菓子以外にお料理も。だ、だから、ムッシュ・アル、私とお付き合いしていただけませんか!?」
今度こそアルは固まった。
そして数秒後、ようやく慌てだした。
「えと…お付き合い…ですか…?」
「はい。18歳になれば結婚できます。それまでに私、色んなこと頑張ります。だから、結婚を前提にお付き合いいただけませんか…!?」
アルはますます困り、助けを求めようと振り向いた。
しかし、そこにいたのは悪い笑顔で野次馬丸出しのジルと、高みの見物を決め込んだニヤニヤ顔のミカ。
(ひ、ひどい!)
アルがロラに向き直ると彼女は顔を赤くして目をウルウルさせて、そして、睨んでいた。
(なんで怒ってるの!?)
どうしようか考えて子供だましな答えは失礼だろうと思い、アルは片膝ついて、目の高さを合わせた。
アルの顔が柔らかい笑顔になり、眼差しが真摯なものになると、ロラは思わず見惚れてしまった。
「マドモアゼル・ロラ、あなたの好意は嬉しく思います。有難いとも思います。ですが、残念ながらあなたの気持ちには応えられません。年齢が問題なのではなく、私の気持ちの問題です。私にはとても大切な人がいます。人生を投げ出しても構わないくらい大切で、命を失っても惜しくないほど愛しています。だから、あなたの好意は受け取れません」
貴公子のような振る舞いにロラは驚き、そして言葉の意味を捉えて涙を流すと大声で泣き始めた。
落ち着き払っていたアルも、そうなるとどうして良いか分からなくなって、あたふたし出したところへ、ちょうど良くマノンが来てくれた。
「お嬢さんを泣かせてしまってすみません」
「いえ、いいんです」
マノンは苦笑しながらロラを抱き上げると、「お騒がせしました」と退室した。
「盛大な惚気を聞かされましたわ、社長」
「熱烈な告白だったね、ジル」
マノンとロラの去ったドアを呆然と見ていたアルは、2人の芝居がかったセリフに振り向いた。
「あ、や、えっと…」
真っ赤な顔のアルがおたおたしてる姿がおかしくて2人は笑った。
「もてるね、アル」
「からかわないでください!」
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