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緑茶の国で 1
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「うわ、あっちぃ」
京都駅のホームに降りたアルの第一声はこれだった。
「だから言ったんですよ。日本の夏はきついですよって」
そう言って早くも扇子を取り出しパタパタとあおぐのはウィリアムズ商事の買い付け担当、リシャール・ブーグローだ。
「想像以上だ…」
しばしの絶句状態からようやく口を開いてそう言ったのはミカ。
今回は3人で日本へ出張ついでにバカンスということになっていた。
仕事はもちろん3人一緒だが、日本滞在期間後半のバカンスは別行動となる。
そして、前半の仕事も半分近くは観光だ。
「ほら、行きますよ」
熱気で溶けそうになっているミカをリシャールが急かした。
今年のバカンスはどうする?とミカに聞かれて、アルは2人で過ごせるならどこでもいいと答えた。
ウィリアムズ商事は以前から紅茶に力を入れていたが、紅茶は奥が深い。
歴史やバリエーションを探ると中国茶、日本茶にも目が留まる。
ちょうどフランスでも日本茶がブームになって、今は割と市民権を得ているが、それでも紅茶ほどにはポピュラーではない。
新しいものに飛びつく国民性ではないフランス人は古いものが大好きだ。
歴史ある国の歴史あるお茶を商品ラインナップに加えるのも良いだろう。
様々な下準備の後、試験販売することが決まった。
そのためにリシャール達が日本へ出張すると決まったのは春。
リシャール以外のバイヤーたちも日本の茶所をそれぞれ巡り、彼は京都を中心に回ることになった。
リシャールの妻は日本人で夏のバカンスは彼女の両親の家に滞在するのが常になっている。
今回は妻と子供は先に実家へ行き、リシャールは仕事が終わったら合流する。
京都からは離れた所だが、フランスから行くことを考えれば近いだろう。
リシャールの話を聞いたミカが行ってみたいと言い出したのは単なる好奇心だ。
海外への出張は初めてではないが、日本にはまだ行ったことのないミカにとって、不案内な者だけで行くよりも心強い。
しかも、リシャールという通訳付きだ。
一緒に出張して、ついでに観光したいと言うミカにリシャールは苦笑しながらOKした。
その話を聞かされたアルは、バカンスがまさか未知の遥か彼方の異国でとなるとは予想もしていなかったので驚いた。
しかし、「出張だよ、出張」と明らかに出張ではないだろうというミカの喜びようを見て、楽しみにすることにした。
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