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とある春の一日 1
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「そうだ、昨日言い忘れちゃったけど、来週から出張で海外に行くから留守番よろしくね」
朝食を摂りながらミカは大したことないことのようにそう言った。
「どこ行くの?」
ミカの出張は少ないけれど初めてじゃない。
俺の‘散歩’が心配だからって、以前は控えてくれたり日帰りにしてたらしい。
けど、大学に入って、だいぶ落ち着いたし、1泊の出張なら経験済みだ。
「前半はオーストラリアとニュージーランド。そのあとアジアを回ってから帰ってくる」
「遠いね」
今までミカの出張はヨーロッパだけだった。
だから1泊で帰ってこれたわけで…。
「うん、多分2,3週間かかるけど、大丈夫?」
ミカの言う大丈夫?には、きっと色んな意味が含まれてるんだろう。
心配はさせたくない。
「大丈夫だよ。ミカがいない間も学校さぼらないし、‘散歩’も行かないように頑張る」
ミカが困ったような顔で笑った。
「そうじゃなくてさ」
ミカはテーブルを回って俺の横に来ると、くいっと顎を引き上げてキスを落としてきた。
「寂しくない?」
言われてから初めて2,3週間という時間の長さを考えた。
朝起きてミカがいなくて、キスが無くて、ひとりで食べて、学校行って、帰ってきてもミカはいなくて、帰ってくることもなくて、「お帰り」も「おやすみ」もなくて、ひとりで寝て、ひとりのベッドで朝を迎える。
それを何日も何日も繰り返すんだ。
今までの出張なら、すぐに帰って来るって安心感があった。
でも今回は長い。そして遠い。
俺、耐えられるかな?
寂しいってより不安。
でも、これヤバイ。
口にしたら余計に辛くなる。
自覚しちゃいけないやつ。
我慢できる内は我慢しないとだめになっちゃうパターンだ。
気付かないふりして自分を騙さなきゃ。
言ったら自分の耳が聞く。
耳から入ると言葉は気持ちを定めてしまう。
俺は口を強く結んだ。
「心配しないで、ミカ。仕事に集中してよ。俺は平気だから」
ミカはくしゃくしゃと俺の頭を撫でた。
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