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④
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付き合う?
俺と一ノ瀬くんが?
「…どういうことですか」
一ノ瀬くんが訝しげな表情で問い掛ける。俺は、何て言えばいいのか、言葉が見つからなかった。
「どういうことって、そのままの意味だよ」
そして、わざわざ世良さんは言い直す。
「陽裕くんと遥斗くんが、カップルになるってこと」
言い直したって変わらない。
一ノ瀬くんと、付き合う。
どうして?
それに対して今思うことは、それだけだった。
意味がよく理解出来ない。どうして一ノ瀬くんと付き合わなきゃいけないの?世良さんは何を考えてるの?
嫌だ。
俺と関わることで一ノ瀬くんを傷付けたくない。
俺は、一ノ瀬くんと付き合うには全然見合わない人間だ。そんな資格は無い。
「どうしてですか」
「いやぁ、ね?…だって遥斗くんさ、陽裕くんのこと好きでしょ?」
「え……」
一ノ瀬くんは俺のことが好き?
俺は一ノ瀬くんの顔を見上げた。
驚いているのか、怒っているのか、一ノ瀬くんは世良さんを凝視したまま動かない。
「そう、なんですか……?」
そんな訳ない。
一ノ瀬くん、俺のことが気になってるとは言ったけど、好きとは一度も聞いていない。
「なんで……」
俺の言葉に答えてなのか何なのか、震えた声で一ノ瀬くんが呟く。
「あれ?もしかして本人に言ってないのか」
世良さんが楽しげに笑う。
いや、世良さんから見てそう見えているだけかもしれないから、一ノ瀬くんが本当に俺のことが好きなのかなんて分からない。
「一ノ瀬くん……?」
すると、一ノ瀬くんはやっと俺の方を向いた。無理に笑っているように見える。
「…本当ですよ。俺は、佐伯さんのことが好きです」
突然の告白だった。
俺が何も言わずにいると、世良さんが口を挟んでくる。
「だってよ。だから付き合いなって」
そんなこと言ったって……
増々混乱する。分からない。
どうしてこんなことになったんだろう。ただ俺は、世良さんに一言言いたかっただけなのに。
「どうして……」
「佐伯さん」
名前を呼ばれた途端に、強く一ノ瀬くんに抱き締められる。ビックリして逃げ出したくなったけど、身体が動かない。
「…見かけだけでいいので、承諾してください」
そう耳元で、小さな声で言われた。
世良さんに聞こえないように言うから、何も聞き返すことが出来ない。
そして一ノ瀬くんは俺から離れると、次は世良さんにも聞こえる声で言った。
「俺と付き合ってください」
俺はどうすることが正解なのかも分からなくて、とりあえず頷く。だけど、いくら上辺だけだと言っても、一ノ瀬くんはこんなので納得するの?
「…これでいいですか」
一ノ瀬くんに聞かれると、世良さんは微笑んで見せた。
「うん、いいよ」
「じゃあ、もう佐伯さんに関わらないでくださいね」
「分かってるよ。お幸せにね」
世良さんはそれだけ言うと、満足そうに会議室を出て行った。
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