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④
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神代の声を聞いた瞬間、俺は恐怖で足が動かなくなった。
昨日みたいにしっかりとした覚悟が出来上がっていないから、尚更敏感に、怖いと感じてしまう。
「始めまして」
(え……?)
しかし、世良さんは俺の緊張など嘲笑うように、部屋の中へと入って行った。まるで、友人の家に行くみたいに。
「世良さっ……」
「おー、ちゃんと陽裕もいるじゃん」
俺が声を出したことで、神代に話し掛けられる。
すごく気分が悪かった。
(やめて……)
名前を呼ばないでくれ。
一ノ瀬くんに呼ばれる度に嬉しい名前も、全てが汚れてしまうようで嫌だった。
神代が関わる全てが嫌いになりそうだ。
「…行きましょう、佐伯さん」
泣きそうになりながらも、俺は頷いて中に足を踏み入れる。
「あ、一ノ瀬遥斗ですよー」
一ノ瀬くんを見た洸平が、そう声を上げた。
こんばんは、と一ノ瀬くんは通常のテンションで洸平に応える。
「写真より男前ですねー」
洸平はわざと茶化した。
目の前の人物に驚くどころか、初めて見た相手に嬉しそうな顔をしている。
(なんだ、この雰囲気……)
もっと喧嘩腰な感じで迎えられると思っていたのに、神代も洸平も笑っている。
まさか、この展開を予想していたとでも言うのだろうか。
どうせ俺は他の人に話してしまうと、そう思われていたのだろうか。
どっちにしても、神代たちが何を企んでいるのか、何も見えてこなくて怖い。
「……それで、君たちは何をしにきたのかなぁ?」
次は神代から口を開いた。
その表情は余裕ぶっていて、酷く俺の心臓を忙しなくさせる。
俺に対しての質問ではないから、何も言い返せなかった。
「もう陽裕くんに関わらないで欲しいなぁ、って言いに来たんだけど」
そこで、当然でしょ?とでも言うようなニュアンスで世良さんが答える。
一ノ瀬くんは、握る手により力を込めた。
それはまるで俺に安心感を与えるようで、言葉にしなくても伝わってくる。
「…もしこれからも無理矢理に佐伯さんを襲うようなら、本当に警察に通報しますよ」
「抵抗するなら、こっちも武力で対抗するよー」
一ノ瀬くんと世良さんが言っているのに、なぜか神代の視線は俺へと向いた。
やっぱり、不気味に笑っている。
「なー陽裕よぉ、なんで話した訳?」
神代の瞳は俺を掴み、目線を外すことが出来なかった。いつもの笑顔の裏で、相当キレているのが分かる。
俺は息を切らせ、ただ震えるばかりで。
(…嫌だ……)
喉の奥から絞り出されるような呼吸で、言葉も発せなくなる。
何か言わなきゃいけないことは分かっているのに、それが出来ない。
「…あ、の……」
口元だけが空回りし、声は出ないけど口の動きは何かを訴えた。
「なに?言いたいことがあるなら言いなよ」
脅迫じみた神代の口調は、増々俺を恐怖に貶める。
(どうすればいいの……)
一ノ瀬くんや世良さんにばかり頼るのは申し訳なくて、二人の顔は見れなかった。
だけど、この状況を俺だけで打破することは不可能で。
「………」
そっと睫毛を持ち上げると、一ノ瀬くんと目が合った。その表情はすごく俺を心配していて、胸が痛む。
(そんな顔させたくない……)
やっぱり俺は、嫌な思いをさせてしまった。
本当に、ごめんなさい……
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